約 220,411 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1212.html
SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-4 gavotte 「ヒューマノイド・インタフェイス?」 「そう。人によって呼び方は様々だが、ようは人体を模した駆動義体の総称さ」 現在の2030年代に入ってから、人は様々なロボットを実用化してきた。 武装神姫もそうしたロボット開発の中で創り出された、人のパートナーとしてのアンドロイドの一種だ。 武装神姫は日常生活におけるマスコットとしての要求から、その大きさは14から15センチとなった。その一方、医療における義肢・義体の研究、純粋労働力としての可能性の研究としてのロボット開発も行われていた。駆動義体とは、そうした目的で作られた人体、もしくはその部分的な要素を模した機器のことを指す。 「でも、等身大の駆動義体なんて存在するのかしら?」 ふたり仲良く首を傾げる伊吹に、神楽さんがちっちっちっと舌を鳴らす。 「何だってアンダーグランド……裏社会は存在するものさ。表向きにはないとされているものが、本当に存在しないとは限らないのだよ?」 神楽さんの話によると、一般レベルでは様々な法・倫理的な問題で人間大のアンドロイドは実在しないとされている。が、裏の社会ではすでにそういったものの開発に成功しているらしい。 驚くシュンたちだが「考えてもみたまえ。全高15センチのオート・マタが存在するんだ。だとしたら、それを等身大にしたものが開発されていても、何ら不思議なことはないだろう?」と神楽さんに言われると、なんとなく納得できる。 確かにたった全高15センチほどで、あれだけの機能を備えた武装神姫がすでにいるんだ。むしろ、技術的な面で言えば人間を模したロボットを作るなら、人間と同じ大きさの方がいろいろと面倒がないんじゃないか? 「早い話、そういうことだよ。実験目的、研究開発、または趣味嗜好などなど……アングラなところでは様々な需要があるのだよ」 具体的にはどんな?――試しにシュンが聞くと、神楽さんは「君は知らなくてもいいことだよ」といい笑顔で返された。 みんなの方を向くと「シュッちゃんにはまだ早いわよ」と伊吹にいい笑顔で肩を叩かれた。 「いや、待てよ? 何かすっげー気になるんですけど……」 「…………えいっ」 「イタタタタッ!? ちょっ……足っ、足踏まれてるんですけど、伊吹さん!? つーか本気でいたっ……痛い、痛いってのっ!?」 耕一とチカが苦笑する。なんかその心配する表情がグサッとくるのは何故だ? 「ま、戯れるおふたりはそっと無視しておくとして……そのヒューマノイド・インタフェイスというものを使えば、チカさんが本物のヴァイオリンを弾くことは可能なのですね?」 「そうさ。しかし何ぶん非合法……げふっげふん。あ~、あまり良い子のみんなはまねをしてはいけないよ的な代物なので、いくつか制限がある」 神楽さんは指をひとつ立てる。 「まず、このことに関しては他言無用とすること。ここに集まったメンバ以外には、秘密を厳守してもらう。これは君たちのためでもある、絶対に他には喋ってくれるなよ」 ふたつ目の指。 「ひとつ目から分かると思うが、この方法での演奏を一般人の前で行うものNGだ。あくまでも必要最低限の関係者だけを集めた……まあ、ごく内輪でのリサイタルということになるね」 みっつ目。 「この方法ができるのは、今回一回のみだ。……別にバトル前に言っていたことは、ハッタリという訳ではないのさ。調達できたといっても、引っ張り出す名目をでっち上げて今回限りという取り決めとなっている。つまり――」 そこで神楽さんは耕一とチカを見て、ニヤリと笑った。 「あとから、あの時やっぱり本物のヴァイオリンを弾いておけばよかった……なんて後悔の念を抱いても、残念ながらもう協力はできないよ?」 ギョッとした顔でみんながチカを見た。 みなの見つめる先で、チカは驚いた眼差しを神楽さんに向ける。 「そんな……いえ、そういうことじゃなくて……。でも……」 「チカさん、あなた自身が疑問に思ってしまっているのではないのですか?」 今まで黙っていたゼリスが、ゆっくりと口を開く。 「本物のヴァイオリンを弾くことが、本当に自分の音色を見つけることになるのだろうか――と」 ゼリスの言葉に、ビクリとチカが肩を振るわせる。 「本当はもう気づいているのでは? ――本物のヴァイオリンがなくとも、あなたの創るべき音色は、その胸の内にあるということに」 チカがギュッと自分の胸に手を当てる。そこに息づくもの――神姫の感情中枢たる機関〝CSC〝。そこから紡がれる彼女の心――自らのマスターを想う気持ち。 「例え私たちの手足が人を機械的に模した縮小に過ぎないとしても、ヴェイオリンの音が電子的に再現された複製に過ぎないとしても、それを奏でるあなた自身――CSCから産まれる私たちの感情は、心は。まぎれもない私たちの――あなた自身の本当の想いです」 「私自身の――想い」 ポツリとチカが呟いた。 ――それはとても大切なもの。でも、それが実際何なのかは分からない、見えないもの。 だから、みんな勘違いしたのだ。 ――それは人間だって、自分自身のことだって、何かと問われれば明確な答えなど返せない。すごくあやふやなもの。 チカ自身も勘違いしていたこと、手段と目的を取り違えていたことに。 ――心。 それにゼリスは気づいていたのだ。そのために独りで反対したり、ワザと邪魔をしてみせたりしたのだ。 すべては本当に大切なことを気づいてもらうために。 ――それは、確かに誰もが持っている。人も、神姫だって。 ゼリスは最初からチカのことを、同じ立場の親友として、誰よりも心配していたんだ。 「大切なのは、弾く楽器ではなく、誰かを想って音楽を奏でるあなた自身です。あなたは、あなたの音色を奏でればいいのですよ」 ゼリスはチカの肩に手を置き、瞳を真っ直ぐに見つめた。その彼女の瞳、朝露に濡れた新緑のようなそれは、優しい色。 「私は……」 チカがその唇から、言葉を搾り出す。彼女の小さな体の中では、様々な葛藤が駆け巡っているのだろう。 「そのくらいにしておきたまえよ、ゼリス君。その先は彼女が一番良く分かっているはずさ。後は彼女自身の問題だよ」 ぐるりと神楽さんが一堂を仰いだ。 この場にいる誰もが、温かい目でチカを見守っていた。 チカがどんな答えを出そうと、誰もがそれを肯定する……と。 「さあ、命題だ。仮初の人の身を得、真のヴァイオリンという名のイコンを求むるか、否か――。君はどちらを選ぶんだい?」 悩める少女は、側らに立つ、最も大切な人の顔を仰いだ。 そこにあるのは、彼女の大好きな優しい笑顔。どんな答えを出そうとも、その意思を尊重する。彼女を認めると言っていた。 それに勇気付けられ、チカは静かに口を開いた。 「私は――」 ♪♪♪ 開幕。 シックな装いに身を包んだ彼女を、燕尾服を着込んだ少年が付き添う。 優しく差し伸べられた手を、白い小さな両手で大切に包む。 招かれた場所は、とある屋敷の一室。 観客は少年少女とふたりの人形、黒い影法師。 彼らに囲まれて、車椅子に佇むひとりの老紳士。 五人は彼女に勇気と奇跡をくれた、魔法使い。 老紳士は大切な家族。彼女の隣に立つ少年にとっては師。 彼女にとって、音の素晴らしさを教えてくれた恩師。 緊張した彼女を察して、隣に立つ少年が笑む。 優しい笑顔、大好きな笑顔。それだけで体を包む緊張という鎖から解き放たれていくのを、彼女はその身に感じた。 彼女を想い集まってくれた人たちへ、今日という日を与えてくれた喜びに、感謝を込めて。 少年がタクトを取り出し、少女はヴェイオリンを手に取る。 それは今宵一夜限りの。 慎ましやかで温かな、彼と彼女の音色のリサイタル――。 ♪♪♪ 六月といえば梅雨だ。先週までの雨も途絶え、今週の日曜は朝から暖かな日差し。 梅雨前線と高気圧のおしくら饅頭も、どうやら軍配が上がるのはもうすぐそこだ。 「今年の夏は暑くなるかなぁ~」 「そうですね。記録的な事例から、空梅雨のあとは猛暑が訪れる確率が高いと言えます」 だかだらとベットに横になりながら、なんとなしのシュンの独り言に、机の上から返事が返ってくる。 どうやらゼリスはシュンの机の上に陣取っての、ネットサーフィンの最中らしい。 「ぢゃんぢゃぢゃ~ん、優ちゃん登場!」 ガチャリとドアが開き、妹の優が部屋に入ってきた。 そのままニコニコ、ささっと机に向かい「何してるの?」とゼリスに話しかける。 わいのわいのと今度は優も一緒になって、ふたりはキーボードをカチャカチャしだした。 「お前ら、人の部屋に勝手に入ってきて騒ぐなよ……」 無駄だと分かっての投げ槍な講義は、キャアキャア騒ぐふたりに黙殺される。 シュンは読んでいた雑誌を放り出して、ベットに身を投げ出した。 あ~あ。日曜の朝から騒がしいヤツらめ。 「あっ、新着メールが届いてる。差出人は……チカちゃん?」 「そのようですね」 その遣り取りにシュンはハッとベットから身を起した。 あの一見以来、耕一たちとはまだ一度も連絡を取っていなかった。今ふたりはどうしてるんだろう? 「……ふむ。おふたりともあれから元気にしていらっしゃるようですね。耕一さんの音楽の修養の方も、チカさんのヴァイオリンの方も、順調に励んでいらっしゃるようです」 「そうなのか?」 シュンも優の後ろから、PCモニタを覗き込む。三人一緒になって同じ画面を覗きながら、ゼリスが文面を読み上げる。 「それで……ほう。おふたりは今度ヨーロッパに旅立たれるそうですね」 「ヨーロッパ?」 「はい。どうやら本格的に音楽の勉強をするために、耕一さんが留学なさるそうです。それにチカさんも一緒なさるそうです」 モニタに映し出された文章では、以前から海外留学の話があり悩んでいたが、最近になってやっと決心がついたので、ふたりで欧州に旅立つことにした事。向こうでもお互いに支えあって頑張ることなどがしとやかな文面で綴られ、最後に『しばらく逢えなくなってしまうけど、帰ってきたら必ずまたみなさんをヴァイオリン演奏にご招待致します』と締めくくられていた。 「そっか……ふたりとも頑張ってるんだな」 シュンの言葉に、ゼリスがこくんと頷いた。 あの日見た、ふたりの互いに寄り添う姿。きっとふたりなら遠い異国の地だって、うまくやっていけるに違いない。 感慨深げに目蓋を閉じるシュンとゼリスに、ひとり優だけが憮然とした顔をする。 「チカちゃんって、前に家にやってきたヴァイオリンの神姫だよね? そういえば、私だけあの後何があったか聞いてない。私だけ仲間はずれ~えっ! 結局チカちゃんは本物のヴァイオリンを弾けたの?」 優がぷっくり頬を膨らませる。シュンは苦笑しながら優の頭をポンポン叩く。 「別に仲間はずれにしてないっての。あの後なあ……」 と、そのとき聞きなれたメロディがどこからともなく聞こえてきた。開けっ放しのドアから、優の部屋の細工時計が10時を告げる音色を運んできたのだ。 「あ――っ!? もうこんな時間。黒猫キッドが始まっちゃうよ~っ」 「うわっと?」 いきなり優は奇声を上げると、椅子の上でピーンッと飛び上がり、大急ぎでリビングへと駆けていく。 ……そんなに慌てるほど大事か、黒猫キッド。 「ふう、慌てて階段から転げ落ちるなよ……」 やれやれとシュンが椅子にかけると、ゼリスがジッとモニタを見つめていた。 やっぱりゼリスなりに、親友の旅立ちを想っているのか。あるいは、ひょっとしたら寂しさを感じてるのかも知れない。 「ゼリス……」 シュンが声をかけると、ゼリスはこちらを振り返り、そのままシュンの頭に飛び乗った。 「ほら、シュン。急がないと今週の黒猫キッドを見逃してしまいますよ」 「はいはい、了解~」 ったく。少しはしおらしいところもあるんじゃないかと思ったら、すぐこれだ。 まあ、しおらしい態度なんかされたら、それはそれで調子が狂っちゃうけどな。 ゼリスを頭に乗せ立ち上がりながら、シュンは窓の外に目を向ける。 いつも道理の日曜の午前、雨の恵みによって芽吹いた新緑を、爽やかな青空が照らしていた。 FINE & ……To be continued Next Phase. ▲BACK///NEXT▼ 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2447.html
MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 3」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 船内中央の吹き抜けにフィールドがあり、両端に神姫のオーナーが立つ。 上手のフィールドにはがっしりとした体格の中年のスーツ姿の男、男の横には重武装のワシ型、戦闘攻撃機型の神姫が腕を組んでふんぞり返っている。 □戦闘攻撃機型MMS 「グロリア」 SSSランク 二つ名「ヤーヴォ」 オーナー名「海原 幸之助」♂ 55歳 職業 海運業社長 グロリア「さてと・・・今宵の哀れな犠牲者はどなたでしょう?楽しみですねェマスター」 グロリアはぺきぱきと指を鳴らす。 海原「グロリア!!今日も勝たせてくれよーげっへへ、勝ってからが楽しみだ・・・今夜のバトルはよォ・・・げへへ」 グロリアが呆れた顔で肩をすくめる。 グロリア「やれやれ、またいつものアレですか?マスターも好きですねー」 海原「ばかもん、言うだろ?英雄、色を好むってなぁ」 下卑た笑いを上げる海原。 カツカツと靴音を鳴らしながら、もう一人のオーナーが下手に登場する。 パチンとライトの照明が船内の中央の台座に照らされる。 ???「レディース・アンド・ジェントルメンッ!!!武装紳士および淑女の皆様、大変長らくお待たせしました。今宵のメイン・イベント!!!スペシャルマッチを始めたいと思います」 観客たちが一斉にパチパチと拍手を行う。 台座の中央に、安藤と同じスーツ姿の若い男性が大げさなパフォーマンスで挨拶を行う。 □サンタ型MMS 「カミュ」 ?ランク オーナー名「東條 輝」♂ ?歳 職業 ??? 東條「私は今回のスペシャルマッチの司会を担当させて頂く、『東條』と申します。こちらは私の愛神姫、「カミュ」です」 東條の肩からぴょんと青色のサンタ型神姫が飛び出す。 カミュ「ヨロシークーみんなー」 東條はパンと手を叩く。 東條「さて、それでは今宵のメイン・イベント!!!スペシャルマッチの選手を紹介しましょう。まずは青コーナー、SSSランクの強ランカー「海原」氏の有する「グロリア」!!」 画面の中央にグロリアの映像が流れる。 東條「二つ名「ヤーヴォ」の名を有する「グロリア」はこの『アヴァロン』ではお馴染みのベテランランカーMMSです。重武装、高機動、そして海原氏の優秀な指揮によってどのようなタイプの武装神姫も葬りさってきた熟練の神姫です」 上手には海原がすっと立ち、マイクを握る。 海原「げっへへ、皆さん、今宵も我がグロリアの勇姿をとくとご覧ください。楽しませてごらんに入れましょう」 パチパチと拍手が起きる。 東條「続いて赤コーナー、SSランクの強ランカー「宇野 瑠璃」嬢の有する「スクルド」です!!」 赤コーナーから、真紅のミニチャイナドレスを着た凛とした美しさを持った女性が姿を現す。 □戦乙女型MMS 「スクルド」 SSランク 二つ名「蒼」 オーナー名「宇野 瑠璃」♀ 20歳 職業 神姫マスター ざわざわと、会場の観客たちがざわめく。 「おい、あれ・・・って」「ひゅーーー♪まじかよ」「げへへ」「うおっ・・・これはーー」 瑠璃「・・・く・・・」 瑠璃はぎゅっと唇を噛み締める。 海原「ぐふっ・・・約束どおりの格好で来たなぁ・・・瑠璃」 グロリア「ぷっ・・・あは・・・本当?笑っちゃうねー」 グロリアはくすくすと笑う。 男性の観客たちが好奇と好色の入り混じった視線を注ぐ。 丈が短いミニチャイナの下には、陰部が丸見えで、ミニチャイナの合間に覗く白い恥部とのコントラストが美しく、人々の目を否応なしに惹きつける。 さらにその股間からは、静かに蜜が垂れていた・・・ 瑠璃「ふう・・・ふう・・・ふう・・・」 瑠璃は顔を赤らめてフルフルと耐える。 海原「おほ・・・良い眺めだぜ、瑠璃・・・そのチャイナドレス・・・よく似合っているぜ」 海原は下卑た声で喋る。 瑠璃「くっ・・・約束・・・どおり・・・か、金・・金を持ってきたんだな!!」 海原はくいっと顎をしゃくる。 海原「おい、グロリア!」 グロリアは海原のカバンからぴらっと一枚の紙を出す。 グロリア「6000万の小切手だ」 東條がニヤついた顔で説明する。 東條「さて、今回のバトル・・・少々、事情を説明させていただきます」 カミュがVTRを流す。 東條「この美しい女性オーナー、瑠璃嬢は裏の非公式バトルロンドではそれなりの実力者で、戦乙女型MMS「スクルド」二つ名「蒼」を持つSS級のランカーです。今まで相当な額を荒稼ぎしてきました」 スクルドの戦闘シーンが流れる。 東條「そんな彼女が戦う理由、それは・・・」 画面が切り替わる。 真っ白な病室に、スヤスヤと眠っている男の子。 東條「彼女にはたった一人の肉親、弟がいたのです。名前はええと「雄介」君だっけ?雄介君は数年前に交通事故で植物人間状態・・・ですが多額の手術費を用意することによって外国で手術することによって元のどおり、元気な姿に戻ることが出来るのです!!」 カミュ「いやーーーお涙頂戴のいいお話ですねーーーー」 「あっはははは」「雄介クンーーがんばってーーー」 観客内から笑い声が起きる。 瑠璃「・・・くう・・・」 東條「そのために、瑠璃嬢は毎日、裏の非公式バトルロンドでけなげに荒稼ぎを行い、手術費用を得て、目標まで後わずかというところまできました!!と・こ・ろが・・・」 海原「先週のバトルロンドで、このワシがその手術費用を全額、賭けバトルロンドで分捕っちまったぁ!!いやあスマンスマン!!!」 海原がマイクを掴んで叫ぶ。 観客が大笑いする。 「あっはははっはは!!」「海原さん酷いーーー」「返してやれよーーーあんた、金持ちだろーーー」「鬼畜――――」 野次を飛ばす観客たち。 海原「うん、ワシもそこまで酷い男ではない。そこで瑠璃さんと再度、賭けバトルを行うこととした!!リターンマッチというわけだ!!」 東條「今回の賭けバトルは特殊です。海原さんは海運業の社長でお金持ちーーー5000万は大金じゃありませんー、一方、瑠璃さんは一線もお金を持っていません・・・そんな彼女が差し出すものはなんだと思いますか?」 観客がざわつく。 カミュ「お互いに賭けるものを口に出してくださいーー♪」 海原「ワシが負けたら、雄介くんの手術費用、全額を支払ってやる!!そうだなだいたい6000万くらいかな?」 東條「さて、瑠璃さんは何を賭けます?」 瑠璃「・・・わ・・・私は・・・を・・・賭ける・・・」 海原「聞こえんぞ!!もっと大きな声ではっきりと!!」 瑠璃はきっと海原を睨む。 瑠璃「わたしはッ!!!!私の女としての身体を賭けるッ!!!う、海原の子供を孕んで・・・こ、子供を・・・産みます・・・」 おおおおおおおおーーーーー 会場内が一気に沸騰する。 海原「このご時世だ・・・負けたらお前の子宮は俺の専用の精液袋となって、メス奴隷となるってことだぁ・・・ふへっへへ」 瑠璃「・・・・・下種が・・・・く・・・」 瑠璃ははっはっと荒い息を吐く。 海原「んん?どうしたぁ?瑠璃ちゃん?言いつけどおり、飲んできた発情剤が効いてきたかな?」 瑠璃は顔を真っ赤にして叫ぶ。 瑠璃「くっ!!!うううう・・・ううう!!」 海原「マ○コ丸出しでカッコイイぜ、瑠璃」 グロリアは呆れた顔で東條に叫ぶ。 グロリア「はあぁ・・・バカな女だ・・・まったく、どうしようもないな・・・おい、司会!!さっさとおっぱじめようぜ!!こんな三文芝居はどーでもいい!!」 東條「了解しました。では」 瑠璃がアタッシュケースのふたを開ける。 瑠璃「スクルド・・・出てきて」 アタッシュケースの中から蒼い装甲に身を包んだ神姫が出てくる。 スクルド「・・・マイマスター」 瑠璃「負けれないの・・・私はどうなってもいい・・・でも・・・あの子には・・・」 瑠璃はぽたぽたと涙を流す。 スクルドはそっと優しく瑠璃の涙を手にすくう。 スクルド「泣かないでください。マスター・・・私は必ず、必ず・・・勝ちます」 ドルンドルン!!! グロリアがエンジンを思い切り吹かして暖気を行う。 海原「ええか、グロリア、下手な小細工や卑怯な手は一切使うな!圧倒的なパワーで叩き潰せ!!勝ったらお前の望むことをなんでもしてやる」 グロリア「・・・・本当ですね?」 海原「ああ・・・男に二言はない」 グロリア「・・・了解しました、絶対に勝利します」 海原「おおおー頼もしいな!!」 グロリア「武装神姫に二言はありませんよ」 海原「へっへへ!!!!言っていろ!!!」 ばしっとグロリアのケツを叩く海原。 二階の観客席から眺める神代と安藤。 神代「ふっ・・・・くだらないな」 安藤「ええ、ですがシンプルです」 ルカ「ど、どうなるんですか?」 神代「・・・・今日はこの戦いが見たかったんだ」 安藤「ほう・・・何か縁でも?」 神代「・・・・」 神代は無言で答える。 安藤「まあ、いいでしょう」 ルカ「は、始まりますよーマスター」 ルカはわくわくしながら神代をつつく。 安藤「ふふふ、ルカさんも楽しまれているようで何よりです」 ルカ「い、いえ!!わたしは・・・そのお・・・結末が・・・気になるだけですぅ・・・」 神代「そうだな・・・私も気になる・・・」 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「敗北の代価 4」 前に戻る>「敗北の代価 2」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1466.html
{2VS2!さぁ、バトル開始だ!!} 「わーい!先輩とラブラブデート!!」 「それは絶対にありえねー」 隣に女の子らしい服とミニスカ姿で座っている婪がウキウキ気分で浮いた話しをしていて、俺はというと愛車を運転しながらツッコミを入れる役になっちまってる。 今日は婪と神姫バトルする日だ。 昨日の夜、俺とアンジェラス達が晩飯を食ってる時に家の電話機が鳴って俺は飯を食う事を中断させられた。 渋々電話を取ると『先輩ー♪明日は日曜日だし、バトルしましょー!』という感じに言われた。 言うまでもないが、声の主は婪だ。 怠いので『嫌だ。じゃあな』と言ったら今にも泣きそうな声で『お願いです~!バトルしてください~!!じゃないとあたし死んじゃいますー…』とか返事された。 婪に泣かれると後々面倒なので、仕方なく俺は了解しちまった訳で今の状況にある。 「ネェネェ、先輩♪」 「なんだ?」 「このまま愛の逃避行しよ!そして二人で人気ない山奥でひっそり暮らしましょう!!」 「それなんてエロゲー?つーかぁ、せめて普通に暮らそうぜ。山奥とかだったら生活するのに苦労しそうだし」 「じゃあ、逃避行してくれるの!?」 「んな訳あるかよ、バーカ!」 「ブー!先輩の意気地無し…」 「今ここで下ろされたいか?」 「冗談、冗談!冗談だって先輩!!」 冗談に聞こえないんだよ、お前が言うと。 ため息をつき、後ろの席をチラッと見る。 そこには嫉妬に燃え上がるような目で俺と婪を見る俺の神姫達。 …なんかちょっと怖いなぁ。 そんなに睨む必要ないじゃないよ。 相手は男の婪だぜ。 嫉妬する理由が見つからん。 はぁ~、なんかバトルする前に疲れそうだなぁ。 「あ、そういえば。婪は確かハウリンとマオチャオを持っていたよな。あの文化祭で見た奴」 「藍と錬の事ね。ちゃんとここに居るよ」 婪がそう言うとヒョッコリと胸ポケットから顔を出す藍と錬。 藍の奴はなんだか俺に向ける視線が敵視してる目だった。 そうだ、あいつは文化祭の時に俺の右頬に蹴りを決めて奴だ。 ただちょっとつまみ上げたぐらいで普通やらるかな。 おっと。 神姫センターが見えてきたな。 車を駐車場に入って、とっととバトルを済ましちまおう。 そして俺は車を駐車場に止めて外に出た。 俺の神姫達は両肩に二人づつ座る。 もうこのスタイルが定着してるみたいだ。 「ほら行くぞ」 「はーい、先輩♪」 婪はルンルン気分で俺の右腕に抱き着く。 …ヒッジョ~に歩きづらいんですけど。 「婪、早くはな」 「離しませんよ。あたしは先輩の事が大好きなんですから」 俺が言い切る前に言われた。 「…はぁ~。もう勝手にしろ」 「はーい♪」 ったく、しょうがない奴だ。 まぁ、周りからはバカップルが入って来た、と思うぐらいで終わるだろうからあんまり目立たないだろう。 婪の奴は確かに男だが、容姿は美人で可愛い女の子だ。 オタクの俺が『萌え』という単語を使いたいぐらいの容姿なのだ。 だから、ホモだと思われる事はまず無いだろう。 俺はそう思いながら神姫センターに入った。 だが、ここで俺は大きな間違いをしていたに気づかなかったのだ。 神姫センターに入った途端に他の奴等から注目の目線を浴びる。 しかも見てる奴等の表情が驚きや羨ましいそうな表情だった。 何故だ!? そんなにバカップルが珍しいのか!? 「先輩、先輩♪」 「ん?」 「先輩のランキングは?」 「ランキング?」 「先輩…もしかして知らないですか?」 「知らん。ていうか、神姫にもランキングがあるんだぁ」 「ありますよ」 ヘェー、初めて知ったぜ。 やっぱり勝った順位なんだろなぁ。 少し気になる。 「それは何処で解るんだ?」 「受け付け近くにある電光掲示板で分かりますよ。ほら、あそこにある大きなディスプレイです」 婪が教えてくれた場所には確かに天井に吊されている大きなディスプレイがあった。 …なんで気付かなかったんだろう。 所詮、武装神姫のオーナーでも俺はバイト感覚だから最終的に勝てばいいと思っていたからなぁ。 どうでもいいと思ったものは興味しめさないからなぁー俺は。 まぁ、今は気になるから見て行こうか。 俺は婪を連れてディスプレイが見える位置に移動した。 そしてディスプレイに映る画像を見る。 そこには色々なオーナーの名前と所持している神姫の型と名前が書いてあった。 ふーん、成る程ねぇ~。 これで確認して順位を競う訳かぁ。 「先輩のオーナーの名前は?」 「…天薙」 「『天薙』先輩、そのままですね」 「別にいいだろ、順位なんてどうでもいい、て思ってたんだから」 ちょっと後悔したなぁ。 どうせならもっとカッコイイ名前にすれば良かったぜ。 「天薙はぁ~…。あっ!ありましたよ先輩!!」 「何処だ?」 「ほら、あそこです。左上にあります」 婪が人差し指で教えてくれた。 そこには確かに『天薙』と書かれていた。 順位は18位。 う~ん、18位って凄いのか凄くないのか解らん。 「凄いです先輩!18位じゃないですか!!」 「凄いのか?」 「だってここの神姫センターでも数百人以上いるんですよ。凄いに決まってるじゃないですか!」 「ヘェー、そうなんだ。因みにお前は何位?」 「あたしですか?一番左上です」 「一番左上…ナッ!?一位じゃんかよ!」 「エヘヘ、もっと褒めてくださーい。これでもファーストランカーなんですよ」 マジかよ。 こんなまじかに凄腕が居たとはなぁ。 あーなる程、解ったよ、どうしてこんなにも俺等が注目される理由がさぁ。 原因は婪が武装神姫で凄腕有名人だからこんなに注目されるんだ。 しかも姿が女の子で可愛いから更に男を引き付ける。 「早く闘いましょー」 「あ、おう。そうだな」 婪の奴は早くバトルしたくて待ち遠しいみたいだ。 待たすの可哀相だし早めににバトルしてやるか。 俺と婪はバトルする筐体に行きお互い筐体を挟んで向かい合う。 「今日のバトルは2VS2です。先輩の神姫は四人いるので、そのうちの二人を選んでください」 「へいへい」 2VS2かぁ。 チーム戦はやった事ないから経験者の婪の方が経験値が高い。 今回は結構辛い闘いになるかもしれない。 俺は自分の神姫達を見る。 するとアンジェラスは右耳にコソコソ言った。 「ご主人様、今回のチーム戦で本当にグラディウスを使ってもいいのでしょうか?」 「あーその事ね。大丈夫、思う存分に使え。昨日の夜に言った通りだから」 「はい!」 「それとクリナーレ、ルーナ、パルカ。お前等に渡す物がある」 そう言って俺は首に掛けてるネックレスを外し更にネックレスについてるペンダントを外し、外したペンダントをクリナーレ、ルーナ、パルカに渡す。 『これはいったい何?』てな感じで見てくるクリナーレ達。 アンジェラスの場合、前の闘いで渡して使用してもらってるから別に驚いた表情はなかった。 「こいつはお前等を守ってくれる武器だ。バトルに入れば使い方が自然と解るようにシステムされてるから安心しろ」 「ヘェー、こいう武器も作れるとい事はアニキってやっぱり頭良いんだ」 何、そのいままで俺は馬鹿だって言いたいのか? まぁここで怒ってもしょうがない。 バトルチームを考えないと。 「チーム編成は…双子編隊でいくか」 「双子変態!?お兄ちゃん、私達は変態じゃありません!」 「馬鹿!漢字が違う!!」 パルカの奴、酷い勘違いもいい所だぞ…まったく。 「アンジェラスとルーナの天使型チーム。クリナーレとパルカの悪魔型チーム、てな感じで双子編隊と言ったんだ」 「うわ、なんにも捻りもないチーム編成ですわね」 「ストレートに言ってくれるじゃんかよ、ル~ナ~」 「「「「アハハハッ!」」」」 まったく、ルーナは俺をからかうのが好きでどうしようもない奴だ。 でもまぁこうやって緊張感をほぐしてもらうのもいい事だ。 「さて、それじゃあ先発はどっちのチームでいこうか?」 腕組みしながら考える。 チラッと両肩をこうごに見ると、俺の神姫達は『私のチームを選んで!』オーラが見える。 これは慎重に決めないとなぁ。 アンジェラスは万能型でルーナは中距離型。 アンジェラスはどんな状況でもルーナのバックアップが出来るし、一番のバトル経験者だ。 ルーナの奴もヒット&ウェイを得意とするから案外良いコンビネーションが出来そうだ。 そしてクリナーレは近距離型でパルカは遠距離型。 クリナーレの場合、近距離の打撃、斬激、貫通を得意とするから高いダメージを敵にあたえる事が出来るが隙が多いから反撃をクラウ事もあるかもしれない。 でもそこでパルカの遠距離型が役に立つ。 もしクリナーレがしくじってもパルカがバックアップすれば相手の攻撃を阻止出来る。 運がよければ相手にダメージを与える事もできるかもしれない、バランスがとれてるチームだ。 …さーと、どっちのチームを先発にするか。 「天使型チームにしよう」 「悪魔型チームにしよう」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1808.html
「まったく……」 ここ、神姫センターに来てから不満ばかり口にしている気がする。 そしてそのたびに耳元できぃきぃ言っていた声が今はしない。 ホントだったらありがたいことなのに、今に限ってかえって僕を苛立たせる。 「やれやれ……」 ティールームで時間を潰してしばらく、もう15分ほどで対戦時間、そろそろバトル筐体に向かおうとした所で、それに気づいた。 「まったく、どこに行ったんだ、あの馬鹿……」 つまり、あいつがいなくなったことに。 ティールームのディスプレイに対戦相手が表示されてから、僕はなんとなく黙り込んでしまったから、それからいつの間にあのチビ人形が落ちるにしろどこかに行ったにしろ、全然心当たりがない。 時間にして、五分ほど……だと思う。 バトルに乗り気だったあいつがわざわざすっぽかすためにどこかに行ったとは考えづらいから、そんなに遠くにいるはずはないんだけど…… 「……おーい……」 なんとなく、小声で呼びかけてみる。 それ以上のことはできなかった。 少し大きな声で、名前を呼びながら探せばいくらなんでも見つかるだろう。 そんなことは分かってる。 だけど、そんな迷子を捜しているような真似をすることに抵抗があった。 落とした機械の名前を呼んで、探すという事に。 わかってる、別にそれは、非合理的なことじゃない。 感覚素子と、状況に対して判断するまるで人間のような機械を探すのに、名前を呼んで探すことは別におかしなことでもなんでもない。 だけど、なぜか、それをするのは躊躇われた。 僕が否定していたものに負けるような気がして。 あいつに……ジェヴァーナに人格が、心があるのを認めてしまうような気がして。 「……仕方ないな……受付に行ってみよう」 誤魔化すように、はぁ、と大きくため息をついてから、僕はカウンターへと歩いていった。 「いたたたた……こらマスターっ!!」 雑踏の中、少女が声を上げる。 雑踏と言っても少女の目線に人影はない。 その代わり少女の身長ほどの大きさの靴底が、いくつも並んでいるだけだった。 「……あれ?」 視線を上げれば見えるはずだと思っていた、彼女の主の頭は見当たらない。 「ボク、迷子になっちゃった……かな?」 さして不安そうでもない様子で少女……ジェヴァーナが小首をかしげる。 いくつもの、(彼女にとっては)巨大な足がジェヴァーナからそう遠くないところを踏みしめていく。 いつ彼女が踏まれてしまうかと、同じ目線を持つものならば、心配になってしまうかも知れない。 とはいえ、ここは神姫センターだ。 足元にいる神姫を誤って踏みつけような粗忽者がそうそういるはずもなく、少女の……神姫の苦難を見捨てるような者もそういない。 「おっと、大丈夫? マスターとはぐれたのかな?」 当然のごとくほとんど間をおかず、ジェヴァーナに救いの手が差し伸べられた。 ぬっ、と文字通り差し出された手のひらを少し見てから、ジェヴァーナが飛び乗る。 それと同時にジェヴァーナは持ち上げられ、神姫の視界から人間の視界へと移動する。 「ありがと。迷子になっちゃったみたいでさ」 「みたいだね」 明るい声と同時にジェヴァーナの前に現れたのは、にこやかな少年の笑顔だった。 年の頃は多分、彼女のマスターと変わらないくらい。つまり、中学にあがるかあがらないか。 やわらかい笑みは年相応の無邪気さと、少年らしい好奇心、この年齢で神姫を持つ子供たちにありがちな、育ちのよさそうな雰囲気が見てとれる。 「…………」 そして彼の肩には自分と同じ、ストラーフタイプの神姫。 同じタイプの神姫でもそれぞれ個性はある。 出荷時にはそれぞれメーカーによって規定されたパーソナリティしか持たない彼女たちだが、胸にはめられたCSCと、なによりそれぞれのオーナーと過ごした日々が彼女たち、人にあらざるものに『人格』を与える。 無表情に、しかし、まっすぐにジェヴァーナに向けられた瞳は工業製品であるのにもかかわらず、意志が宿っていることを強く認識させる。 自分と同じ顔を持ちながら、自分の浮かべたことのない表情を浮かべている少年の神姫を、ジェヴァーナは興味深そうに覗き込む。 「ボク、ジェヴァーナ」 「俺は……ん? どっかで聞いたような……」 名乗ろうとした少年が、次の瞬間に怪訝そうな顔ほ浮かべる。 そんな少年の様子から何かに気づいた様子で、肩にのった神姫が言葉を発する。 「マスター。次の対戦相手」 「ああ」 ぽん、と手を打って少年が得心顔を浮かべる。 「対戦相手?」 そんな二人の会話に一瞬意味がわからなくて、ジェヴァーナが首をかしげる。 「俺は島田祐一。ここでのバトル登録にはU1って書いたけどね。よろしく、ジェヴァーナ」 「アイゼン。よろしく」 にこっと笑いながら祐一が、無表情なまま手を差し出してアイゼンが、それぞれ名乗る。 「ん? 祐一……U1? アイゼン?」 さきほどのマスターとの会話、そして掲示板に表示されていた名前を思い出す。 「え、ええっ?!」 そう言うことらしかった。 「あーっ! マスターッ!」 後ろから聞こえた声に僕は思わず背中をすくませる。 「……?」 振り返るとそこには両肩に二体のストラーフをのせた、僕と同じくらいの年齢の男の子が立っていた。 「えーっと……」 別にストラーフタイプの声自体は、今に限らずあっちこっちで聞こえ続けてたんだけど、今の声はなんとなく、そのどれとも違っていて、なぜか僕を呼んでいたような気がして思わず振り返ってしまった。 「ひどいじゃないかっ! ボクを落としたりなんかしてさっ!」 びしっ、と僕を指差して言うのは、男の子の左肩に乗ったストラーフ。 って事はやっぱり…… 「ジェヴァーナか……?」 「当たり前だよ。なに言ってるんだよ。もーっ!」 きぃきぃとわめいているジェヴァーナに辟易しているのか、肩にのせている男の子が、首を傾けて苦笑している。 「ええっ……と……」 とりあえず、恐る恐る男の子の方に近づいて、肩に乗っているジェヴァーナらしきストラーフと男の子の顔を見比べる。 僕も背が高いほうじゃないけど、それでもぎりぎり僕の目線に彼の額が繰るくらい。 だからたぶん、小学校4、5年生くらいなんだろう。 「き、君が拾ってくれたの?」 「あ、うん。偶然。まさか次の対戦相手だとは思わなかったけどね」 「……?」 僕と違って、物怖じしない調子で言う言葉の中に、なんだかよく意味のわからない言葉が混じっていた。 「そうそう、マスター聞いてよ! この人たちボクたちのは対戦相手!」 ぴょん、と僕の肩に飛び乗ったジェヴァーナが、遠慮なく大声で叫ぶ。 「……は?」 僕は間抜けな声をあげて、改めて目の前の男の子と、その肩に乗るストラーフを見つめた。 「その……ありがとう」 「いえいえ、どういたしまして」 改めて礼を言うと、彼……島田祐一はにっこりと笑って答えた。 お互いに簡単な自己紹介をすましたところで、神姫バトル筐体のそばで順番待ちをしているところ。 アイゼンのマスター、U1……島田祐一は普段はここから少し離れた天海市でバトルをしているらしい。 驚いたことに、祐一は小学6年生……僕と1年しか違わないそうだ。 ……てっきり、二つ三つは下だと思ってた…… なれなれしいだけの馬鹿な小学生かと思ったら、そんなのにありがちなうるさいほどの自己主張はない。 沈黙が重くならない程度に、自己紹介まじりの雑談をしかけてくるだけだ。 そんなところはむしろ大人びた印象さえ受けてしまう。 つまり一言で言えば、この島田祐一という少年は、「いい人」だった。 「いい人」といるのは、そうでない人といるのとはまた別の息苦しさがある。 相手の話を聞かなければならない、時には相手に話し掛けなければならない。 だからと言って、勿論「よくない人」と一緒にいたいっていうわけでもない。 つまり、僕は誰とも一緒にいるのが苦手なんだってだけなんだけど。 「で、俺はこの辺にきたのは初めてでさ、偶然この神姫センターを見つけたから、ちょっとバトルをしてみようと思って。バトルロイヤル筐体はないみたいだけど」 「マスター、それは、天海の方が希」 「へえ……」 「そっちはデビュー戦だそうだけど、やっぱりこの辺じゃ、ここが一番大きな神姫センターなのかな?」 「さ、さあ……」 「ああ、ごめんね、うちのマスター引きこもりだから」 「……っ! 余計なこというなよっ!」 反射的に肩にのったジェヴァーナを振り落とす。 「いたた、もう、マスターっ! 二度も落とすな! ホントのことなんだからさ!」 「こいつ……っ!」 今度は反射的にじゃない。 つかみあげたジェヴァーナを握り締めて、そのまま締め上げる。 「んくっ、ちょっ、と、さすがに、痛いよ、マスターっ……」 人形のくせに、人形のくせに! 人形のくせに!! 羞恥心が、ますます僕の怒りに火をつけて、今まで少しずつたまっていた胸の中のものを吐き出させようとする。 その瞬間。 「やりすぎだよ。そんなに苦しそうにしてるじゃないか」 今までの人の好さそうな表情から一転して、鋭い目つきでにらみつけ、僕とそう大して変わらない身長からは考えられないくらい強く僕の肩を握り締めて、祐一が言った。 「い、痛そうな振りしてるだけだろ、武装神姫なんてオモチャなんだから、心のある振りをしてるだけのさ」 一瞬、それにひるみそうになりながらも、僕は強がって答える。 「……本気でそんなこと考えてるの?」 「ほ、本気もなにも、そんなの、当たり前だろ? 武装神姫なんてただのおもちゃなんだからさ」 「………………」 精一杯の虚勢を張って言う僕を祐一はさっきより険を含んだ目で見返す。 その肩には、祐一と同じく、僕をにらみつけている彼の神姫、アイゼンがいる。 ジェヴァーナと同じ顔をした神姫が無表情に、まるでジェヴァーナの代わりにらみつけているような気がして、僕は少しだけ、気後れしてしまう。 「あ、マスター、そろそろ時間みたいだよ」 「え……?」 いつのまにか緩んでしまった手から抜け出していたのか、ジェヴァーナは僕の肩にのったまま、普段と同じようにそう言った。 「ほ、ほら、こいつがただのプログラムだから、こんななにもなかったみたいに……」 我ながら、捨て台詞みたいだと感じてしまう。 「キミは、神姫ってものがわかってないみたいだな」 「……そんなことない。ストラーフのスペックや、構造、機構についてはこの一週間で開発者にだって負けないくらい調べ尽くしてる」 自分にとって唯一自信がある機械いじりについて、思わず言い訳するように言っていた。 そんな僕を見たまま、祐一が少しだけ哀れむような感情をにじませる。 「言い直すよ」 そして、ひとつだけため息を吐く。 「キミ、心ってものがわかってないみたいだな」 「……っ!」 その言葉に思わず口篭もってしまった。 分かってないわけじゃない。 信じていないだけだ。 そういい返したくて、なぜか言い返せない。 目の前の僕よりひとつ年下の少年が、なぜか、僕よりずっと年上に感じてしまう。 「ジェヴァーナには悪いけど、負ける気がしない」 「ぼ、僕は別に、勝つつもりでやってるんじゃない。ただ、データを取りにきただけなんだから……」 思わず祐一から……それともアイゼンから、顔をそむけながら小声でつぶやく。 「……行こう、アイゼン」 「ん」 そんな僕の言葉は聞こえたのか聞こえてないのか、祐一は回れ右をして僕から離れ、筐体へと向かう。 「ほらほら、マスター、ボクたちも準備しないと」 「なん……だよ、武装神姫なんて、ただのオモチャなのに、なんであんなに必死になってるんだ?」 ジェヴァーナに、というわけじゃない。 負け惜しみみたいに、そうつぶやいていた。 「ふふっ、マスターは子供だなあ」 「え……? ど、どうしてだよ」 目が合うと、なぜかジェヴァーナがクスクスと笑い始める。 「そういうところが、だよ」 意味がわからない。 「さあ、ボクたちも準備しないと、バトルっていうより、ちょっと喧嘩みたいになっちゃったけどね。その辺の区別はしてくれる相手だと思うし。多分大丈夫だよ」 やっぱり意味のわからないことを言うジェヴァーナに促されるようにして、僕は対戦筐体へと向かっていった…… 「マスター、怒ってる?」 島田祐一の肩で彼の神姫、アイゼンが声をかける。 「ん……ちょっとね。ああいうマスターもいるんだって、知ってはいるけどさ」 苦笑いを浮かべながら、少しだけ申し訳なさそうにアイゼンへと悪びれる。 「珍しく、ボケ体質じゃない普通のダメな人だった」 「まあ……確かに姉さんはじめ、周りのダメ人間はああいうタイプじゃないけどさ。幸か不幸か」 「突っ込み担当のマスターとしては、欲求不満?」 「別に俺もツッコミたくてつっこんでるわけじゃないんだけど」 「むしろ本能?」 「いやな本能だな、それ!」 「……大丈夫、クールボケ系はまかせて」 「まかせてないよ! 帰ってきてよアイゼン!」 「それが運命」 「いやな運命だな、それ!」 「マスターのこれからの人生、色んなボケ担当が集まってくるから、安心して」 「安心できないよ!? そんな人生ごめんだよ!」 「……よかった、いつものマスター」 「え?」 不意に笑みを返すアイゼンに、祐一は思わずきょとん、としてしまう。 「ちょっと普段のマスターと違ったから、心配した」 「……うん。もう大丈夫、ありがとうアイゼン」 「……どういたしまして」 やわらかい笑みを浮かべる祐一に、少しだけ唇の端を上げてアイゼンも微笑む。 「さて、とりあえずはこのバトルに集中しようか! 油断するなよ、アイゼン!」 「うん。分かってる」 ポケットから取り出したPDAから、祐一が手早くアイゼンの状態とステージ設定を読み取っていく。 明らかに素人離れした手つきでそれらの情報は祐一本人に吸収され、アイゼンへと伝えられる。 その次の瞬間、筐体が、試合開始を伝えた。 ちなみに、アイゼンのいろんなボケ担当が集まってくる、という予言は、その後5年間を経て成就されることになる。 閑話休題。 「トップへ」/「戻る」/「次へ」?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2742.html
キズナのキセキ ACT1-28「すべてがつながるとき」 ◆ 形勢は逆転していた。 マグダレーナが攻め、ミスティが下がる。 マグダレーナが切り札と言うだけあって、長剣ソリッドスネークは尋常でない破壊力を秘めていた。 「シャアアアアァァッ!!」 しわがれ声で放たれる気合いは、まるでガラガラヘビの威嚇音のようだ。 振るわれた長剣が蛇のようにうねり、ミスティに襲いかかる。 「くっ……!」 エアロヴァジュラを立て、受け流すように防御する。 耳障りな音を立てて迫るソリッドスネーク。刀身をいくつもの刃に分裂させ、次々にエアロヴァジュラと接触する。 なんとか防ぎきった。 ほっとするのも束の間、ミスティはぞっとする。 手にした刀は、ガタガタに刃こぼれしていた。これでは刀として斬る用をなさない。 「……なんてこと」 刃の強度が違うのだ。エアロヴァジュラはソリッドスネークの刃に負けてしまっている。 防戦に回っては不利だ。 「……ならばっ!」 ミスティはボロボロの刀を振り上げ疾走する。 攻めに出て、形勢を取り戻す。刃こぼれしていてもまだ使える。斬るのではなく、叩きつける。 ミスティは一気にマグダレーナの間合いに踏み込んだ。 しかし。 「……っ!!」 またしても耳障りな音と共に、ミスティの視界をソリッドスネークの蛇腹が横切った。 落ち着きを払ったマグダレーナによる操作で、ソリッドスネークは彼女を取り巻くように動いている。 まるで刃の結界。三六○度、隙はない。 「おおぉっ!!」 それでもミスティは、力任せにエアロヴァジュラを振り下ろした。 ソリッドスネークが宙を走りながら、その一撃を受け止める。 逆に、流れる連結刃がその一刀を次々と襲う。 ついにエアロヴァジュラが粉々に砕け散った。 「……くそっ!」 素早く間合いを取りながら、手に残った柄をマグダレーナに投げつける。 しかし、それもソリッドスネークの餌食になった。空中で粉砕され、マグダレーナに届くことはない。 その様子を睨みながら、ミスティはソリッドスネークの間合いの外へ退いた。 左の副腕にマウントされていた予備のエアロヴァジュラを抜き取る。 だが、この予備の刀もどれほどに役に立つものか。 あのソリッドスネークという武器はやっかいだ。 攻撃には縦横自在の動きで圧倒してくる。連なる刃による連続攻撃をはまるでチェーンソーだ。迂闊な防御は役に立たない。 防御にも力を発揮している。マグダレーナを取り巻くように動いて、近寄らせない。迂闊に近寄れば、なます切りになるだろう。まさに攻防一体の防御陣だ。 ソリッドスネークの動きは武器の域を越えて、まるで生き物のように思える。意志を持った生き物のように。 「……まさか……」 ◆ 「なにあれ……まるで生きてるみたい……」 涼子の感想は、奇しくもミスティと一致していた。 蛇腹剣・ソリッドスネークは、まるで意志を持つ蛇のごとく、ミスティを攻め、マグダレーナを守る。 マグダレーナの操作は超絶と言えよう。対峙した状態でも、ソリッドスネークの剣先は、ミスティを威嚇しているように見える。 まるで獲物に飛びかからんとする蛇の様相。 「……まさか……!」 美緒は思わず声を上げていた。 「まさか、ソリッドスネークも……あれも神姫……!?」 「……っ!」 その場にいた全員が息を飲む。 考えられないことではない。いや、その可能性の方が高い。 あれほどに意志を持った動きをするマグダレーナの武器ならば……『マルチオーダー』の支配下にあると考える方が自然だ。 だとすれば、マグダレーナは特殊スキルの一つを取り戻したことになる。 そして、ミスティは二人の神姫を相手にしているのと同じだった。 ソリッドスネークの動きはマグダレーナの操作ではない。ソリッドスネークという神姫の意志だというならば、あれほどに意志の宿った動きにも納得がいく。 対するミスティは、この短い間に圧倒的な劣勢に追いつめられていた。 「勝てるのかよ、ミスティ……」 弱気な言葉を口にしながら、有紀はそっとチームリーダーの顔を見た。 このバトルでミスティの有利を作り続けたその男。 遠野貴樹は無言のまま、戦況を睨み続けている。 ◆ これまでの鬱憤を晴らすかのように、マグダレーナが攻めに出る。 ミスティは焦燥にかられながら、回避するので精一杯の状況だった。 ミスティの武装はすでにボロボロだ。 背面にあったアサルトカービンもすでになく、二本目のエアロヴァジュラも刃こぼれでガラクタ同然。 人工ダイヤの爪はさすがに健在だった。だが、蛇腹剣の一撃をはじいた後、爪を装備した副腕の指は軸が歪み、まともに動かなくなっていた。 装甲にはすでに無数の傷が付けられている。両足の装備が健在で、いまだに滑走していられるのは僥倖という他はない。 あるいは、マグダレーナが意図的に脚に攻撃していないだけかも知れない。奴は「楽には殺さない」と宣言している。 市販品の装備をいくらカスタマイズしても、破壊に特化した特別製の装備に対しては、これが限界だ。 攻撃を捌くのも、いいところあと二回が限度。その前に攻撃にまわり、マグダレーナを倒さなくては、そもそも攻撃の手段を失ってしまう。 しかし、ソリッドスネークを用いた攻勢防御に隙はない。 無理に踏む込めば、ミキサーに飛び込むがごとく、粉砕されるのがオチだ。 「どうすりゃいいってのよ……」 思わず転がり出る弱気。 その逡巡こそ、隙だった。 「……しまった!」 鋼の蛇が襲い来る。 這っていた地面から一息に跳びかかってくる。 反射的に前に出した左の副腕は防御の態勢。 だが遅い。超硬度を誇るソリッドスネークに対し、市販品程度の装甲では防御にならない。左副腕は絶好の餌食だ。 鋼鉄の大蛇の牙が迫る。 鋭い切っ先がまるで飴細工のように、ミスティのカウル状の装甲を引き裂く。 蛇腹の動きは止まらない。 ミスティは苦渋の表情で副腕を捨てる覚悟をする……しようとしたその時。 「なに……っ!?」 驚きの声を発したのはマグダレーナだった。 緑色の装甲を引き裂かんと、蛇腹剣が絡みつこうとした。 が、その瞬間、澄んだ音を立て、蛇のうねりがはじかれたのだ。 ありえない。 市販品の武装パーツごとき、ソリッドスネークで引き裂けないはずがない。 その証拠に、カウル状の腕アーマーはズタズタだ。 驚いているのはミスティも同じだった。 絶体絶命の攻撃を跳ね返した原因に心当たりはない。不思議に思いながら、左の副腕に視線を向ける。 そこに、発見した。 「……なにこれ?」 引き裂かれた装甲の陰、ねじくれたような形の黒光りする金属の棒が覗いている。 剣だ。 黒い刀身を持つ一本の剣。 ミスティは右の副腕を使って、ズタズタに引き裂かれた装甲を剥がす。 装甲の中に剣がマウントされていることなど、ミスティは知らなかった。おそらく、菜々子も知らないだろう。 剣の姿が露わになる。独特の形をした黒剣。 長さはエアロヴァジュラとさして変わらない。フォルムも似ているような気がする。 特徴的なのは、柄尻から先にナイフほどの短い刀身が伸びていることだ。極端な長さの違いはあるが、双剣になっている。 そして、ソリッドスネークの攻撃を受けたというのに、刀身には一点の曇りもなかった。 ミスティは既視感のようなものを感じた。初めて見る剣だというのに、どこかで見たことがあるような感じ。例えればそれは「懐かしさ」であろうか。 ミスティは手を伸ばす。柄を握る。 剣は、あっけなくはずれ、ミスティの手に収まった。 まるでミスティのためにあつらえたかのように、ぴったりと手に馴染む。 しかし、ミスティのメモリーに、この剣のデータはなかった。 この剣はいったい……? □ やっと姿を現したか。 俺が準備していた、最後の切り札。それがあの剣だった。 使わないならそれに越したことはないと思っていたが。 「なんだ……あれは……剣か?」 大城の戸惑うような問いに、俺は頷く。 「ああ、餞別だよ。日暮店長からの。……伝説の剣だ」 ヘッドセットの正体を突き止めるために、日暮店長を訪ねた時、彼に渡された小さな木の箱。 その中に入っていたのが、今ミスティが手にしている黒い剣だった。 「伝説? 何言ってんだ、遠野、こんな時に……」 「知らないか、大城? ……以前、オーメストラーダ社のデザイナーが私費を投じて、個人制作の新型武装神姫を発表した。 女神をモチーフにした神姫で、前評判も高かったが……あまりの完成度の高さゆえに、生産コストが釣り合わず、コンセプトモデルまで発表しておきながら、結局お蔵入りになった」 「……おいおい! それってほとんど都市伝説だろ!?」 「だから言っただろう、伝説の剣だと」 大城は知っていたらしい。 しかし、八重樫さんたち高校生のチームメイトは首を傾げている。 だから俺は説明を続けた。 「その完成度の高さは、その神姫にセットされる予定だった武装も例外じゃなかった。 ショートライフル、長刀、そしてCQCソード。 その武装神姫の発売中止とともに、サンプルとして生産された神姫本体と武装のサンプルがごく少数、市場に流れた。 その神姫は、信念の女神をモチーフにしていたという。 そして、彼女の持つ三つの武器は、信念を貫く者に応えると伝えられた」 「それじゃあ、あの剣は……」 「そう。あの剣こそ、信念の女神の剣……CQCソード、その名は『ブラックライオン』」 「ブラックライオン……」 「『エトランゼ』にはぴったりの剣だろう? イーダ型のデザイナーの手による、最高の完成度の武装。 何より、ブラックライオンは……信念を貫く者に応えるのだから」 だが、そう言うと同時に、俺は不安を感じている。 武器の強度は同等以上、それはいい。 しかし、ブラックライオンとソリッドスネークではリーチの差が圧倒的だ。 あのソリッドスネークをかいくぐり、マグダレーナを倒しきる方法を、俺はどうしても思いつけない。 俺が策を届けられるのはここまでだ。あとはもう、戦場の二人に託す他はなかった。 ◆ マグダレーナの力任せ攻撃を、ミスティは冷静に捌き続けていた。 この冷静さは例の特訓で身につけたものだ。武士道モードの本領発揮である。 逆に、マグダレーナの方は自分が優勢であるにもかかわらず、ムキになっていた。 攻撃が単調になるのもかまわず、ソリッドスネークで打ちつける。 それをミスティが的確な動きで受け流している。 ブラックライオンの強度は、ソリッドスネークを上回っている。ブラックライオンは何度も攻撃を受けているというのに、漆黒の刀身には曇り一つない。逆に、ソリッドスネークは小さな刃こぼれがわずかながら確認できた。 ついにマグダレーナが攻撃を止める。策もなしに、力任せに斬り付けていても、今のミスティは崩せないと悟った。 間合いを取り、蛇腹剣を下段に構える。長い刀身が地面に垂れるが、剣先だけはミスティを威嚇するように首をもたげている。 ミスティはほっと吐息をついた。 彼女は内心、追いつめられていた。 ブラックライオンは確かに頼りになる武器だ。しかし、ソリッドスネークの自在な動きとリーチの長さは未だ健在である。 そして、それをかいくぐる術もないし、たとえマグダレーナと接敵しても、奴を倒しきる方法もない。今のままでは、いずれソリッドスネークの餌食になってしまうだろう。 劣勢なのは未だ自分の方だ。 それを思い知り、焦る。 たとえ刺し違えても奴を倒さなければ。 思い詰めた思考回路がそんなことを考えたが、ミスティはすぐに否定する。 ……いや、刺し違えるのではダメだ。 わたしが壊れてしまったら、ナナコはまた深く傷ついてしまう。今度は二度と立ち直れないかも知れない。 そんなのはダメだ。 マグダレーナを倒し、勝たなくては。 ミスティは心の中で苦笑する。 なんてハードなオーダーなのかしら。 でも、やりきらなくてはならない。いえ、やりきってみせる。 必ず勝つ。 ナナコを守るために。 それが、最後のパスワード、だった。 ミスティのコアの奥深くで、何かの認証がなされた。 (……なに……?) ミスティの視界の中に、文字が書き出されてゆく。 〈意識水準チェック……OK〉 〈技術水準チェック……OK〉 〈装備水準チェック……OK〉 〈基準条件ロック解除、ファイル解凍開始〉 その表示が出た瞬間、ミスティは自分の身体の奥底で、何かが開く音を確かに聞いた。 その刹那。 緑色に発光する0と1の無数の羅列が、音がした部分から間欠泉のように噴き出してくる。 その0と1は、ミスティの未使用のリソース部分に書き出され、ものすごい勢いで整然と並んでいく。 ミスティが意識すれば、視界はグリーンディスプレイのように緑の文字で埋まる。 意味のなかった二文字の羅列が意味をなす。 急速に書き出されていくそれは…… (戦闘プログラム!?) 記憶野の奥深くに隠されていたのは、戦闘プログラムの圧縮ファイルで間違いない。 突然の出来事に目を見張っていたのは、実はほんの一瞬のことだったようだ。 気がつけば、書き出されたプログラムの最後にカーソルが点滅している。 プログラムの最後は付加された注意書きで締められていた。 ミスティはその文字に視線を走らせる。 --------------- わたしのコアを受け継ぐ神姫へ マスターが考案し、わたしが組み立てた、この技。 心、技、体……すべてのプロテクトを解除したあなたには、この技が使えるはずです。 この技が、わたしの最愛のマスター・久住菜々子を守ってくれることを願って。 ミスティ --------------- 初代。 「……姉さん!」 ミスティは無意識のうちに、そう叫んでいた。 同じだった。 嫌っていた初代、彼女の想いもまた、二代目の自分と同じだった。 菜々子を守りたい。 この世にたった一人のマスターを傷つけたくない。もうこれ以上、傷ついて欲しくない。 いや、本当はわかっていた。 ミスティのくだらない劣等感が、初代の想いどころか存在すら拒否していた。 初代はずっと、わたしに手を差し伸べていたはずなのに。 ティアの言葉を聞いていれば、きっと、もっと早く分かったはずなのに。 そして。 こうして伝えられた想いの強さに、今、ミスティは感動さえ覚えていた。 これは奇跡だ。 時を越えても、身体が他の神姫のものになっても、心さえ自分のものではなくなっても、それでも。 最愛のマスターを守りたい、と。 その尊い想いは、確かにミスティの胸に伝わった。 これが奇跡でなくてなんだというのか。 ふと気配を感じ、ミスティは顔を横に向けた。 すぐ隣に、薄く輝きを放つ、白いストラーフが立っている。優しい眼差しでミスティを見つめていた。 初めて見るその神姫を、ミスティは知っていた。 彼女こそは、久住菜々子が初めて所有した神姫。 初代ミスティ。 イーダのミスティの……姉のような存在。 ミスティは真剣な、しかし脅えをはらんだ瞳で、姉を見つめた。 「ごめんなさい、姉さん。 今のわたしじゃ、あいつを倒せない。 ナナコを、守れない。 だから……一緒に戦ってくれる? わたしたちのマスターを守るために。 ……お願い、力を貸して」 ミスティはおずおずと手を伸ばす。 白いストラーフの手がゆっくりと伸びて、ミスティの手をしっかりと掴んだ。 ミスティは少し安堵したように微笑する。 すると、ストラーフのミスティは、にっこりと笑い、そして寄り添う。 白い影がほどけてゆく。 緑色に発光する、無数の0と1の集合へと変化する。 それが一陣の風となって、ミスティの小さな胸に流れ込んだ。 同化する。 戦闘プログラム・インストール完了。 それは、ストラーフのミスティ最後の技。 その名を『花霞(はながすみ)』という。 「完璧だわ……」 かつて、誰かが言った。 技は絆の証だと。 ならば、託されたこの技は、初代と自分をつなぐ絆。 ミスティを名乗る神姫に受け継がれる想いの結晶。 かつて、ミスティがもっとも尊敬し愛する神姫が、言っていた。 神姫の名は誇りだと。 ならば、わたしも誇りを抱こう。 菜々子の神姫として、ミスティの名を継ぐことに! いま、すべての絆がつながった。 ミスティは仰いでいた顔を戻し、正面を見据えた。 いぶかしげな表情のマグダレーナがそこにいる。 瞳に宿るのは、強い意志。 これ以上ないほどに心は燃えていたが、意識はひどく冷静だった。 これもあの合宿の成果……武士道モードのおかげなのか。 ミスティは現状を分析する。 武器の強さは互角。 マグダレーナを倒す最後の一手もある。 だけど、足りない。 ソリッドスネークのリーチを無効にし、マグダレーナ本体に接近する方法がない。 ミスティには策がない。 ならばどうするか。 その策を考えるのは……そう、マスターの役目だ。彼女ならば、いい手を閃くに違いない。 そう信じて、ミスティは叫んだ。 「ナナコ! 桜散らすわ! どうする!?」 菜々子はその一言に、びくりと身体を震わせる。 わかった。菜々子にはその一言だけですべてが理解できた。 今、この一瞬の間に、ミスティが何を見て、そして何を得たのかを。 そして、ミスティが菜々子に何を求めているのかも。 「ミスティ……」 菜々子は俯き、吐息のようにその名を呼ぶ。 かつて心を救われ、家族として愛した白い神姫を想う。 ありがとう。今もわたしを助けてくれるのね。今のミスティも大事に想ってくれて……ほんとうに、ありがとう。 今、菜々子は実感していた。 わたしは独りではない。 武装神姫を通して出会った人たち、出会った神姫たちに支えられ、今ここに立っている。 そして、決してわたしを見捨てないでいてくれる……わたしの神姫、二人のミスティ。 自分とつながるすべての絆……それは、どれほどにかけがえのないものだろう。 愛する人が、わたしに教えてくれた。 そう、それが、それこそが。 『エトランゼ』を名乗るわたしの本当の力……! 菜々子は顔を上げる。 その瞳には強い光が宿っている。まっすぐに決然として前を見た。正面に立つ……桐島あおいを。 あおいは一歩、後ずさる。それは無意識の行動だった。 彼女はたじろいでいた。 目の前にいる人物は、あおいの知る菜々子ではない。 『エトランゼ』の異名を持つ神姫マスター・久住菜々子の本当の姿……かつて、あおいが追い求めた理想を叶えた、真の神姫マスターの姿だった。 「見てください、お姉さま。これが、わたしのたどり着いた答え……。 理想は形に……絆は力に……お姉さまに教わったことは全て正しかったと……その証明です!」 揺るぎない意志を言葉にする。 言い切った菜々子は、自らの神姫に視線を送る。 そして叫んだ。 「ミスティ! 亡霊と踊りなさい!」 その場にいた誰もが、菜々子が何を叫んだのか、その意味するところを理解できない。 だが、それでいい。 ミスティは思っている。菜々子の「無茶ぶり」を理解できるのは、菜々子の神姫・ミスティだけ。 これこそ『エトランゼ』流の『アカシック・レコード』封じだ。 それにしても、まったく、なんてヘビーなオーダーなのかしら。 ミスティの口元に笑みが浮かぶ。 苦笑、ではない。挑戦的な、不敵な微笑。 もう、負ける気がしない。 ミスティは応える。 「応っ!」 ミスティは天に向けて指し上げた黒剣を、左右に鋭く振るう。 剣風が、舞い散る花びらを吹き散らす。 さらに振るう。振るう。 剣を持って舞う。舞い踊る。 ミスティの剣の舞に吸い込まれるように、桜吹雪が渦を巻く。 無数の花弁が、ミスティを押し包んでゆく。 緑色の神姫の姿が、薄紅色に霞む。 その場にいた皆が、ミスティを見つめていた。彼女の舞に、目を奪われている。 渦巻く桜吹雪。 中心にいるミスティの口元には、笑みさえ浮かんでいる。 ミスティを包む薄紅色はどんどんと濃くなり、やがて彼女の姿を覆い隠すほどになる。 まるで桜の花びらの竜巻。勢いはいや増すばかり。 そして、誰もが息を止めたその瞬間。 タン、という音ともに、ミスティが渦から一歩外に踏み出す。 すると。 桜の花びらが、膨らむように舞い散った。 広がり、はらはらと舞い落ちる花弁。 拡散する桜吹雪の中心。 剣を構えたミスティがいる。 その姿はまるで、ミスティが満開の桜の木に変身したかのよう。 マグダレーナはその光景に心奪われていた。 そして、神姫に対する初めての感情を抱く。 美しい、と。 「覚悟はいいか、『狂乱の聖女』マグダレーナ!」 ぼう、と見とれてしまっていたマグダレーナの意識を、ミスティの一喝が現実に引き戻した。 ミスティはまっすぐにマグダレーナを見据えている。 凛、と叫んだ。 「久住菜々子が武装神姫、『エトランゼ』のミスティ! 推して参る!!」 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2249.html
ウサギのナミダ・番外編 黒兎と塔の騎士 前編 ◆ 「遠野さんとティアって、強いのか?」 安藤智哉の言葉に、四人の少女はそれぞれドーナツをくわえたまま、静止した。 四人とも目が点になっている。 俺何か悪いこと言ったか? と首を傾げた。 悪気はなかった。 だが、四人の中で一番早く、蓼科涼子が解凍し、くわえていたドーナツを落として、般若の顔で安藤の胸ぐらを掴んだ。 「何言ってくれちゃってんの、このルーキー風情が!」 「いや、落ち着け蓼科……」 「セカンドリーグの全国チャンピオン『アーンヴァル・クイーン』と互角に渡り合えるのよ!? ティアは強いに決まってんでしょーが!!」 「それがさ……その……オルフェが勝っちゃったんだけど……ティアに」 「…………はあ?」 T駅前、おなじみのミスタードーナッツの店先である。 さすがに恥ずかしい状況なので、動き出した美緒たちが涼子を止めた。 彼女は、師匠に心酔しているので、遠野たちを卑下する話題には、過剰に反応してしまう。 渋々席に着く涼子。視線は安藤を睨んだままだ。 安藤の隣にいた美緒が、涼子をなだめるように口を開く。 「オルフェが勝ったって……遠野さんたちと対戦したの?」 「ああ……こないだの土曜日、ちょっと早い時間で、みんないなくてさ……遠野さんから、アルトレーネと対戦したことないから、やってみないかって」 「それで、ティアが負けた、って?」 ちょっと信じられない、有紀は目を見開いた。 安藤は頷く。 涼子がイスに背を預け、投げやりに言った。 「練習してたんでしょ。遠野さんは勝敗に頓着しない人だから」 涼子は以前、遠野に言われたことがある。 『勝敗よりも、問題点を見つけることが大切だ』と。 あのときの言葉は、涼子と涼姫にとっての座右の銘だ。 安藤は、その涼子の言葉にも頷いた。 「それも分かってるよ。クイーンと伝説的なバトルをしたことも知ってる。 だからこそ、遠野さんとティアが真剣に戦ったら、どれだけ強いのか、どんな戦いになるのか、興味があるんじゃないか」 ふーむ、と美緒たち四人は腕組みして考え込んだ。 確かに、ティアの強さを伝えるのは難しい気がする。 実際に見るのが一番なのだが、遠野は全力の真剣勝負をあまりしない。 しかし、安藤はしばらく後に、それを目の当たりにすることになる。 □ ……墓穴を掘った。 俺はゲーセンの定位置である壁際に背をつき、額を押さえて落ち込んでいた。 オルフェとクインビーの対決からしばらく後の週末である。 あの日、俺は武装神姫のチームを作ることにした。 ここ『ノーザンクロス』では、バトルロンドのチームを作るのがはやりだ。 チームを組むことのメリットは、仲間意識が強くなるだけではない。チームメンバーなら、練習のお願いもしやすいし、戦い方の研究や情報の交換にも役に立つ。 また、対戦もチーム形式で行える。バトルの幅が増え、楽しみも増す。 チームバトルの魅力にとりつかれた常連さんたちが、こぞってチームを組んだ。 俺もいくつかのチームに誘われたが、いずれも断った。 久住さんと大城が「チームを組もう」と言い出したときにも保留にしていた。 俺にとってメリットがないと思っていたからだ。 現状維持でも、俺が武装神姫に求めることは達成できると考えていた。 だが、先日の事件で少し考え方を変えた。 チームを組めば、おいそれとチームメンバーが理不尽な目に遭うことも抑止できるのではないか。 そう考えて、チームを結成することにしたのだが……。 「墓穴を掘った……」 今度は口に出して言う。 チームを結成してからこっち、俺は自分のバトルをろくにしていない。 忙しすぎるのだ。 チーム結成直後は、チームに入れてほしいという希望者が続出した。 それらはすべて断った。チームを大きくする気はないからだ。 それで一苦労した。 だが、今度は俺のチーム宛にチームバトルを申し込んでくる連中が続出した。 それもすべて断った。 そもそも自分を含めたチームメイトを保護する意味が強いチームだし、チーム戦ができるほど、まだチームとしての熟成が足りていなかったからだ。 それでもう一苦労した。 チームのみんなは、俺の考えをよく理解してくれているから、何も言わなかった。 こぢんまりとした俺のチームがなぜこうも注目されるのか、と疑問に思ったが、よく考えてみれば、あの『エトランゼ』と現ランバトチャンピオンと、三強を倒したルーキーがいるチームなのだから、目立って当然か。 そんな事務処理に追われながら、今度はチームメイトのよしみで、バトルの相談に乗ったりしている。 だが、今度はそれも遠慮がなくなってきている。 特に蓼科さんは俺の一番弟子を自称している(認めたくないが)ので、ひっきりなしに話しかけてくる。 それに負けじと、成長著しい安藤が、バトルのアドバイスを求めてくる。 そこに他のチームメイトも加わるのだから、正直いい加減にしろと言いたくなる。 だから、 「おーい、遠野、虎実の空中戦の機動なんだけどさー」 「大城、貴様もかっ」 と言って、大城を邪険にあしらうのも、無理からぬことと思ってほしい。 「まあまあ。それだけ遠野くんがみんなから信頼されてるってことじゃない」 隣にいる久住さんが、そう言って笑う。 ……本当にそうだろうか。 いいように使われているだけのような気がするのは気のせいか。 「ところで、ミスティの変形のタイミングなんだけど……」 「君もかっ」 なんだか誰も信じられなくなりそうな、日曜の昼下がりである。 気分は墓に片足を突っ込んでいる感じだったが、平穏な日々ではあった。 そこに、珍しい客が現れた。 □ ゲームセンター『ノーザンクロス』の入り口が開き、新たな客が入ってくる。 その客に気づいた武装神姫コーナーの常連さんたちが、にわかにざわめきはじめた。 それに気が付いて、俺はふと視線を上げる。 その人物は、いつものように人の良さそうな笑顔で、俺に向かって手を挙げた。 肩には、輝くばかりの存在感を放つ、銀髪の神姫。 「高村……」 「遠野くん、ご無沙汰してます」 俺と高村優斗は握手を交わす。 俺の胸ポケットから、ティアがひょっこりと顔を出した。 「こんにちは、雪華さん」 「ごきげんよう、ティア」 高村の肩にいた銀髪のアーンヴァルは、鮮やかな笑みでティアに応えた。 まわりにいる誰かからため息が聞こえた。 隣にいた久住さんたちも、高村と雪華に挨拶する。 彼がここを訪れたのは、おそらくティアと雪華の一戦以来だろう。 久住さんにとっても久しぶりの再会であるはずだ。 「それで、高村。今日はどうした、こんなところまで。 ……それに、そちらは?」 「今日は、彼と彼の神姫を紹介したくて、来ました。……鳴滝くん」 高村の呼びかけに、一歩後ろにいた男性が前に出る。 体の大きい短髪の青年だった。 堂々とした印象。 ラフな服装の上からでも、鍛え上げた筋肉が見て取れる。 「鳴滝修平です」 「……遠野貴樹です。よろしく」 「お噂はかねがね」 「……はあ」 俺と鳴滝は握手を交わした。物怖じしない性格のようだ。 鳴滝の肩には、神姫がいた。 見たところ、騎士型サイフォス・タイプのカスタム機のようだ。 不機嫌そうな顔で、こちらをやぶにらみである。 マスターである鳴滝の態度とまるでちぐはぐだ。 「というわけで、今日は鳴滝くんのランティスと、遠野くんのティアで対戦してもらいたいんです」 そう言う高村は、相変わらずにこにこと笑っている。 鳴滝は力強く頷き、そして俺は首を傾げた。 ◆ 「なあ、今遠野さんと話してる人……みんな注目してるけど、誰なの?」 安藤が話しかけた美緒と他三名も、やはり遠野たちの会話に釘付けになっている。 涼子はそれを聞いてため息を付いたが、美緒が丁寧に教えてくれた。 「高村優斗さんと、その神姫で雪華。二つ名は『アーンヴァル・クイーン』。現セカンドリーグ全国チャンピオンよ」 「クイーンの雪華って……あの、ティアとすごいバトルをしたっていう……!?」 「そう」 美緒はあっさりと頷いた。 あれがあの『アーンヴァル・クイーン』なのか。 安藤の目は、ひときわ存在感を放つ、銀髪の神姫に吸い寄せられる。 雪華と呼ばれる神姫は、人の目を引きつけずにはおかない何かを備えているように思えた。 □ 「彼の神姫、ランティスは強いですよ。近接戦闘に限れば、秋葉原でも最強クラスです」 「ふむ……」 高村はそう言うが、俺はなおさら首を傾げざるを得ない。 武装神姫の対戦のメッカ・秋葉原で、近接限定ながらも最強クラスなら、対戦相手に事欠かないはずだ。 なのに、なぜ東京から離れたゲームセンターまでやって来て、ティアとの対戦を望むのか? その疑問をぶつけてみると、高村はあっさりこう言った。 「ランティスに挑む相手は、もう秋葉原にはいないのです。彼女はあるステージにおいて無敵を誇ります」 「無敵……?」 秋葉原で、特定のステージ限定とはいえ無敵とは……。 それはある意味、全国大会優勝ほどの実力ではないのか。 「……どのステージか聞いてもいいか」 「それは塔のステージさ。塔においては無敵ゆえに、こうあだ名された。『塔の騎士』あるいは『ナイト・オブ・グラップル』と」 鳴滝が穏やかな表情のまま、さらりと答えた。 肩にいるランティスは、いまだに不機嫌そうな表情を崩さない。 彼女はずっと俺の方を……いや、どうやら俺の胸ポケットにいるティアを睨みつけている。 と、大城が珍しく小さな声で口を挟んだ。 「塔の騎士・ランティス……? 聞いたことあるぞ。秋葉原で無敵のサイフォス・タイプで、その特徴は……武器を持たずに、徒手空拳で戦うって……」 大城は神姫プレイヤーの情報に詳しい。 だが、秋葉原ローカルの神姫まで知っているとは、なかなかの精通ぶりじゃないか。 高村と鳴滝は頷いた。 大城の情報は正しいようだ。 しかし、俺には不可解な点がある。 いくら近接格闘戦が得意な騎士型とはいえ、セットにある多彩な武器を使わず、素手……つまり、格闘術を使った肉弾戦で戦うというのは、いささか無謀ではないか。 しかも、塔のステージでは無敵を誇るという。 にわかには信じがたい。 「塔で無敵って……たとえば、アーンヴァルなんかの飛行タイプを相手にしてもか?」 「もちろん」 「ゼルノグラードのように、銃火器の塊相手でも?」 「言うまでもなく」 「ストラーフのように、サブアームで手数を稼ぐ相手でもか」 「当然です」 高村は俺の言葉にいちいち頷いた。 「塔のステージは、いささか特殊です。塔で最高のパフォーマンスを発揮できる神姫を考えたときに、一番に思いついたのがティアだったんですよ」 「噂は聞いてます。地上戦用の高速機動型で、その戦闘スタイルは唯一無二。そして、『クイーン』を破った、と」 俺は、鳴滝の神姫以上に、不機嫌そうな顔をした。 雪華はティアに負けたと言っているが、実際の試合結果ではティアが敗北している。 クイーンに勝った、などという風評は、俺にとっては好ましいものではない。 そんなことを考えていると、鳴滝の肩から、声がした。 「娼婦風情が、我が女王を倒したなど……世迷い言にもほどがある」 俺は思わずランティスを睨んでいた。 ティアが俺の胸ポケットで、身体をびくり、と震わせたのだ。 ランティスは苛烈ともいえる視線で、ティアを睨んでいた。 そんな神姫を、マスターの鳴滝がたしなめる。 「おい、ランティス……その言い方はないだろう」 「いいえ、師匠。我が女王の強い勧めがあったから、このような辺鄙な場所に来ましたが……あそこの気弱な娼婦が、わたしの相手足りうるなど、到底思えません」 もはやそんな言葉に動揺する俺とティアではないが、初対面の神姫にそう言われて、いい気分はしない。 鳴滝の物腰とは対照的に、不機嫌の度をますます強めるランティス。 そこへ、雪華の静かな叱責が飛んだ。 「ランティス、たとえあなたであろうとも、ティアへの侮辱は、このわたしが許しませんよ」 「え……あの、女王……」 「ティアは我が友であり、我がライバルです。あなたがわたしに見せる忠誠と同じように、彼女にも敬意を払うべきです」 「しかし……あれは娼婦です。あのような下賤な……」 「お黙りなさい!」 雪華が珍しく厳しい口調で怒鳴る。 「そのようなことに囚われているから、あなたは井の中の蛙だというのです。今のあなたのバトルは卑しいというのです」 「そ、それは言い過ぎではありませんか、女王!」 雪華の言いように、ランティスは気色ばむ。 どうやらランティスは、『アーンヴァル・クイーン』に仕える騎士を気取っているらしい。 だとすれば、辺鄙なゲーセンに棲む、人に言えない過去を持つ神姫に対し、敬愛する女王が下へも置かない扱いというのは、納得が行かないのも道理か。 ランティスはなおも食い下がる。 「わたしにも自負があります。相手は高速機動型とは言え、地上戦用。塔であれば後れを取ることはありえません!」 「その増長が卑しいというのです」 「女王!」 「わたしの物言いに不満があるならば、ティアとバトルなさい。きっと今のあなたに足りないものを教えてくれるでしょう」 あくまで不遜な態度を崩さない雪華。 ランティスは雪華のつれない態度に呆然とし、そしてティアへの憎悪を露わにした。 苛烈な視線が俺の胸ポケットへと向けられる。 ティアははらはらした表情で、雪華とランティスを見比べていた。 雪華はやわらかな微笑みを浮かべ、ティアを見て言った。 「ティア。お手数ですみませんが、このランティスに稽古を付けてやってもらえませんか?」 「……え? あ、あの……えと……」 戸惑うティア。 そして、ランティスがついに切れた。 「……いいでしょう。そこな神姫を完膚なきまでに打ち砕いてご覧に入れます。 師匠! マッチメイクを!」 マスターである鳴滝は肩をすくめ、苦笑しながら言った。 「……ということなんだが……ランティスの無礼な物言いは謝る。すまん。 で、改めてバトルを申し込みたい。どうかな?」 ランティスとは違い、鳴滝は柔軟だった。 ランティスの物言いに、正直ムカつくところもあったが、鳴滝は謝ってくれたし、高村と雪華がわざわざここまでやって来て、バトルのセッティングをしようというのだ。 しかも相手は、近接戦闘では秋葉原最強の神姫。 神姫プレイヤーとして、受けなければなるまい。 「ティア、行けるか?」 「マスターが戦いたいというならば、いつでも」 胸ポケットのティアに尋ねれば、いつもの答えが返ってくる。 俺は頷いた。 「OKだ。バトルしよう」 「よかった」 笑って言った鳴滝の肩から、ランティスが続けて言う。 「ステージは『塔』を希望する」 「塔、か……」 「……何か不服でも?」 「いや……ちょっとトラウマがな……」 以前俺たちが経験した塔でのバトルは、あまり思い出したくない。 そばにいた仲間たちも、少しうんざりとした表情をしている。 だが、俺は気を取り直して言った。 「いいだろう。塔のステージで受けて立つ」 俺がそう言った瞬間、周囲から歓声が上がった。 いつの間にか、俺たちのまわりに多くのギャラリーが集まっていた。 ■ バトル直前。 サイドボードに納める装備を吟味しながら、マスターはわたしに言った。 「相手は近接戦闘のプロフェッショナルだ。ちょうどいい機会だ。練習させてもらえ」 「で、でも……ランティスさんはそういう雰囲気じゃなかったみたいですが……」 筐体を挟んだ向こう側のアクセスポッドから、いまだ剣呑な視線がわたしを突いている。 「むしろ好都合だ。こんな草バトルなのに、向こうは真剣勝負で来てくれる。こんなチャンスは滅多にない」 「はあ……」 マスターは楽しそうだ。 その相手に睨まれてるのはわたしなんですけど。 ランティスさんに、圧倒的な力でねじ伏せられるとは、マスターは考えないのだろうか? ランティスさんは、近接格闘戦のみなら、秋葉原で最強クラスだという。 ということは、近接格闘戦でなら、雪華さんをもしのぐ、ということではないのだろうか? しかもステージは『塔』。 地上戦闘用の神姫同士ならば、丸く区切られた、何の障害物もない、まるで円形闘技場のような場所でのバトルになる。 小細工の入る余地もない、真っ向勝負になる。 そんなステージで無敵のランティスさんとわたしで勝負になるのだろうか。 そんなことを思いながら、マスターを見上げる。 するとマスターは微笑んでくれた。 「心配するな。いつも通りにやればいい」 「はい……って、サイドボードに火器が登録されていませんけど……?」 「ああ、相手は武器を持たないんだろ? だったらせめて、近接武器だけにしておくのが礼儀と言うものだろう」 「どこがいつも通りなんですかっ」 マスターが相手を侮っているとも、面白がっているだけとも思えないけれど。 相変わらずマスターの考えはわたしにははかりしれない。 「よし、はじめよう」 わたしと筐体が形作るバーチャルフィールドをつなぐ、アクセスポッドが閉じてゆく。 外の光は、細い一筋の線となり、やがて真の暗闇に包まれる。 一瞬の浮遊感。 意識される対戦カードの文字列。 『ティア VS ランティス』 次に目を開いたとき、わたしは巨大な塔の中にいた。 そして、わたしの視線の先。 ランティスさんの姿があった。 ■ 「ナイフ……?」 ランティスさんはわたしを睨みつけながら呟く。 わたしの手には、大振りなコンバットナイフが一本。 逆手に持って構える。 ランティスさんのまなじりが、さらにつり上がった。 「貴様ッ……銃器も持たずに……舐めてるのか!?」 「いえ、その……マスターの指示で……」 「ふざけるなッ!! もう許さん……一気に決めてやるッ!!」 ランティスさんはそう言うと、両手を顎の前に構え、そのままわたしに向かって突進してきた! 一足飛びに距離を詰めてくる。 わたしはまだ動き出せずにいる。 右ストレートのパンチ。 ランティスさんの、分厚い手甲を着けた腕が、大気を裂いた。 「ハァッ!!」 「わわっ!?」 これほどに速いパンチははじめてだった。 わたしはなんとかかわすだけで精一杯。 でも、ランティスさんの動きは止まらない。 パンチを繰り出した姿勢から、上体を崩し、身体を回転させる。 わたしは瞬時にランティスさんの意図を悟った。 これはわたしが得意とする格闘技と動きが同じ。 このあと、ランティスさんの脚が跳ね上がり、かかとがわたしを狙い打つはず。 はたして、彼女の脚部アーマーに覆われたかかとが空を切る。 「むっ……」 ランティスさんが姿勢を戻したときには、わたしはすでに彼女の攻撃範囲から逃れ、間合いを取っていた。 そうでなければ危ない。 ランティスさんのパンチもキックも、神姫を一撃で破壊するに足る威力を持っている。 「少しはやるようだな……」 ランティスさんは落ち着いた口調でそう言うと、わたしの方を向いて構えを取った。 彼女の装備は、騎士型サイフォス・タイプの軽装アーマーのアレンジ。 銀色の装甲が鈍く光る。 隙のないその構え。 ランティスさんの姿が何倍にも大きく見える。 わたしも腰を落として構える。 そして、走り出した。 中編へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/busou_bm/pages/52.html
項目 説明 LOVE 神姫との親密度です。LOVEが上がるほど、武装ランクとコスト上限が上がります。最大20。→端的に言うとレベル。LOVE・COST・武装ランク 武装ランク 装備できる武器のランクです。このランクが上がるほどより強力な武装を装備出来るようになります。最大5。 LP ライフポイントです。ダメージを受けると減り、0になると負けです。最大9999。アビリティによる上昇は制限なし。 SPD スピードです。数値が高いほど移動するスピードが上がります。最大100。アビリティによる上昇は制限なし。 DEX 命中率です。数値が高いほど攻撃の命中精度(追尾性能)と、ロックオン距離が上がります。最大100。アビリティによる上昇は制限なし。 CHA 魅力です。数値が高いほどライドレシオゲージが上がりやすくなり、減りにくくなります。 DEF 防御力です。数値が高いほど受けるダメージが減ります。最大999。アビリティによる上昇は制限なし。 火器耐性 火器属性に対する耐性です。この数値が高いほど火器属性の攻撃に強くなります。 光学耐性 光学属性に対する耐性です。この数値が高いほど光学属性の攻撃に強くなります。 COST この値を超えない範囲で、神姫の装備を自由に変更できます。(ただし武装ランクは無視できない) 最大900。 「武装神姫BATTLE MASTERS」解説書参照 戦闘終了時のライドレシオゲージの量・ライドMAXになった回数に応じて経験値が入るため、 CHAを高くすると結果的に取得経験値が増えることにつながります。 ―各神姫能力値一覧表― 何も装備していないときの神姫固有のステータス値。 武装エディット画面でアビリティ一覧を表示する際、神姫自身の+アビリティは青文字で表示される(装備によって±0以下になっている場合は表示なし)。 Loveが上がっても変化しない。 例:アーンヴァルMk.2型とマオチャオ型が同じ装備だった場合、LPは50の差が出る。 ただしアビリティの違いから、ストラーフ型の攻撃力のように基本ステータスを覆しているものもある。 名前 LP ATK SPD DEX CHA DEF +アビリティ -アビリティ ハウリン 450 45 4 2 40 40 攻撃力+1,LP+1 DEX-1 マオチャオ 350 40 5 5 40 35 スピード+1,SP+1 防御力-1 アーク 350 40 6 4 40 40 ブースト性能+1,スピード+1 SP-1 イーダ 300 40 5 4 40 40 ブースト性能+1,スピード+1 LP-1 ゼルノグラード 350 45 3 6 40 40 攻撃力+1,DEX+1 スピード-1 アルトレーネ 400 40 4 4 40 50 防御力+1,LP+1 ブースト性能-1 アルトアイネス 450 40 4 4 40 50 攻撃力+1,LP+1 SP-1 アーンヴァルMk.2 400 45 4 7 40 45 スピード+1,DEX+1,SP+1 - ストラーフMk.2 400 35 4 6 40 40 攻撃力+1,防御力+1 - フブキ 400 40 4 4 40 40 DEX+1,SP+1 攻撃力-1 紗羅檀 400 40 4 4 40 40 SP+1 LP-1 ベイビーラズ 400 40 4 4 40 40 攻撃力+1 SP-1 ガブリーヌ 400 40 4 4 40 40 ブースト性能+2 DEX-1 蓮華 400 40 4 4 40 40 スピード+1,SP+1 攻撃力-1 ラプティアス 400 40 4 4 40 40 攻撃力+1,ブースト性能+1 防御力-1 アーティル 400 40 4 4 40 40 スピード+1,DEX+1 ブースト性能-1 各神姫ライドレシオMAX時の上昇能力 ライドレシオMAX状態の間はダッシュ速度が上昇し、ダッシュやターンによるブーストゲージの消費量、RAやアタックチェイン使用時のSP消費量が半減する他、 素体毎に異なる能力ボーナスが得られます。 名前 上昇能力 ハウリン 防御力,スピード,ガードブレイクダメージ マオチャオ 攻撃力,武器エネルギー回復速度,スピード アーク 攻撃力,スピード,ガードブレイクダメージ イーダ 防御力,武器エネルギー回復速度,スピード ゼルノグラード 攻撃力,武器エネルギー回復速度,ガードブレイクダメージ アルトレーネ 攻撃力,防御力,ガードブレイクダメージ アルトアイネス 防御力,武器エネルギー回復速度,スピード アーンヴァルMk.2 防御力,武器エネルギー回復速度,スピード ストラーフMk.2 攻撃力,武器エネルギー回復速度,ガードブレイクダメージ フブキ 攻撃力,スピード,ガードブレイクダメージ 紗羅檀 攻撃力,武器エネルギー回復速度,ガードブレイクダメージ ベイビーラズ 攻撃力,武器エネルギー回復速度,スピード ガブリーヌ 攻撃力,防御力,武器エネルギー回復速度 蓮華 攻撃力,武器エネルギー回復速度,スピード ラプティアス 防御力,武器エネルギー回復速度,ガードブレイクダメージ マリーセレス 防御力,武器エネルギー回復速度,ガードブレイクダメージ アーティル 攻撃力,防御力,スピード 攻撃力 与ダメージが約50%アップ。 スピード SPD値がアップ。全キャラ共通のダッシュ速度ボーナスと効果が重複するので、例えばアーンヴァルとストラーフのSPD・スピード+アビリティを同等に調整しても、アーンヴァルの方がダッシュ速度は上になる。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1657.html
武装神姫のリン 外伝"J dreamer" dream 00 紅の戦乙女 鋼鉄と鋼鉄が己の存在意義を賭けてしのぎを削る血闘。 そう表現することしか出来ない。 今行われているのはセカンドランクの頂上決戦。 ランク暫定1位と2位のどちらか、勝った方がファーストへの昇格を果たす。 コレを逃せば半年は昇格が不可能なこの試合。 両者共にまさに誇りと、己の全力を持って相手にぶつかるのである。 今も刃同士がぶつかる甲高い金属音が会場に響く。 観客は声援を忘れて固唾をのんで見守る。 というのも、戦っているお互いが美しすぎるためだ。 それは決して容姿のことを言っているわけではない。 姿だけ見ればお互いにボロボロ。砂埃にまみれ、"血"を流して戦い続ける。 お互いに悪魔型、そして装備もほぼ同じデフォルト状態+α。 しかもαの部分はすでに使い物にならず、初期武装のアングルブレードであたかも殺陣を演じているかのように戦っている。 「…ハ!!」 「やらせない!!」 またしても金属音…しかし。 ガサン 片方の悪魔型の手からアングルブレードがこぼれ落ちた。 もう一方はチャンスとばかりに蹴りを叩き込み、攻勢に出る。 サブアームで力強いパンチを見舞い、一気にサブアームにバサーカという重装備の相手を吹き飛ばす。 もう勝負は決まるのか?と観客も息をのむ。 優勢になっていた方。 名をキョウという。 フィールドにやむを得ず捨てていたグレネードランチャーを持ち上げると、無造作に最後の1発を発射。 吹き飛ばされた悪魔型。 名を燐と呼ぶ。 がぐったりと倒れているはずの場所にグレネード弾が着弾。 大きな砂埃と共に炎が舞い上がる。 己の勝利を確信したのであろう、キョウは振り返ろうと…己の目を疑った。 炎の中から現れたるは、深紅のスーツに身を包む…いや。 先ほどまで身体の表面を覆っていたと思われる、黒いボディスーツがボロボロになり、焼け落ちインナーである赤いスーツが表面に出ている。そして装備もまたグレネードの炎に触れた影響か、深紅を思わせる色に変色している。 そんな状況にも関わらず彼女の瞳には力強い意志が感じられた。 燐。 黒衣の戦乙女という2つ名を持つ神姫。 彼女もまた、勝負をあきらめるということを知らない神姫であった。 右腕はだらしなく垂れ下がり、もう動かないことを悟ると上腕からイジェクト。 多少ぎこちない動作ではあるが、サブアームの右腕を接続。 左手には何も持たず、そしてサブアームが接続されていたバックパックを切り離す。 両者が同時にサバーカの脚力を存分に発揮して詰め寄る。 最後の激突。 誰もが次の瞬間に勝負が決まると確信している。 「ハ!!」 「…th!!!」 お互いの最初の1撃、キョウの斬撃を燐が紅の爪で受け止める。 2撃、お互いに回し蹴りを繰り出すが、ぶつかり合った左足が互いに動かなくなった。 しかし、 「…な!!」 キョウの足場が崩れる。そこには…先ほど燐の手からこぼれたアングルブレードが。 「……終わりです。」 「やらせない!!!」 燐が紅の爪を繰り出す。 キョウがアングルブレードを突き出す。 交差。 「…上で待っていろ。 すぐ、追いつく。」 「はい。待ってます。」 アングルブレードは燐の左頬を切り裂き、紅の爪はキョウの肩口に食い込んでいた。 そのままキョウは意識を失い、燐の勝利というジャッジが会場に響く。 直後、燐はフィールドから出るやいなや力なく俺に寄り添う。 「勝ちました。これで、ファースト。ですよね?」 「ああ、よく頑張ったよ燐」 「じゃあ…ご褒美、くださいね。」 「OK 今は、休め」 「…はい。」 こうして燐、そして藤堂亮輔はファーストランクへの昇格を果たした。 あの戦いの後、燐の2つ名が「黒衣の戦乙女」から「紅の戦乙女」へと変更になったは当たり前だったのかもしれない。 あの日から5年。 この物語の幕が上がる。 つづく
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/355.html
前へ 先頭ページへ 例えるなら、それは羊水の中を漂うようで。 それは春の木漏れ日の中で日光浴をするようで。 それは絶景を肴に露天風呂に漬かる様で。 ひどく心が休まり、心地が良く、そのまま永遠に過ごしたくなる様な。 それはまるで麻薬の用に五臓六腑に染み渡り、無意識の海にそのまま沈んでいたくなる。 この世で最も過酷な事は、睡眠をとらない事だろうと俺こと倉内 恵太郎は混濁した意識の中でぼんやりと考えていた。 「……ス…………だ…が…………お………」 誰かが俺に話しかけてくる気がしないでもないが、人間の根本に存在する三大欲求の一つに抗って応えられるほど俺は人間が出来ちゃいない。 そんなこんなで狭いシングルベッドの上で毛布に包まり、再び惰眠を貪ろうと身体を捩らせた。 その瞬間、俺の毎日のささやかな幸福の時間は非情にもすっ飛んでった。 頭部に奔る鈍い激痛、頭蓋骨の中で轟音が響き渡るような錯覚。 そのお陰で、俺の意識は一気に覚醒してしまった。 「おはようございます、マスター。今日も清々しい朝ですね」 俺の相棒であるストラーフ型神姫のナルが専用装備である対神姫用実体剣「刃鋼」を小脇に携えて朝の挨拶をしてきた。 「ああ……おはよう」 俺は痛む頭を抑えながら、手厳しい目覚ましで起こしてくれた相棒に挨拶で反す。 朝が弱い俺をナルが刃鋼の腹で俺の頭をブッ叩く。 いつもと同じ清々しい朝だ。 「マスター、お目覚め早々ですが、一限目の講義まで後20分しかありません」 全く、鬱陶しくなるくらいにいつもと同じ清々しい朝だった。 俺は県内の大学に通っている。 工業系、主にロボット工学がメインの大学で、そこそこ名が知られているらしく時折テレビの取材がくるらしい。 もっとも、三十余年前までは余り人気が無くて経営はやばかったらしいが、今は何処吹く風と言うほどの盛況ぶりだ。 情報技術が発達し終えたと言われた202X年、世界は低迷していた。 医学・物理学・天文学・情報工学、人類の主要な技術の殆どが発展を終え、進化の袋小路に追い込まれていた。 世間では世紀末だのノストラダムスの予言だの騒いだらしく、暗黒時代とも呼ばれたらしい。 そこに救世主の如く現れたのが、ロボット工学と情報工学そして人間心理学それら全てを終結させた全長15cm、心と感情を持つMMSと呼ばれる機械仕掛けのお姫様である。 大手玩具メーカーから発売されたMMSは瞬く間に普及し、ありとあらゆる分野に応用され始めた。 大抵のMMSは有効利用されたが、中にはあくどい事に利用する輩も多くいた様で、一介の玩具のために多くの法律が制定されたらしい。 他にも色々と問題があったらしいが、今や過去の話。 MMSは、我々人類の新たな友人として必要不可欠の存在となっている。 そんなこんなで我が大学のロボット工学部の主な内容は殆どがMMSについてである。 我が大学にある学科は四つあり、俺はその内の一つである「MMS環境心理学科」に所属している。 何だかご大層な学科名だが、やっていることは単純明快。神姫バトル、である。 一応は「MMSと人間との心理作用による行動ロジックの云々」とかいう大層な理念が掲げられているが、要は将来有望なランカーを育成し、大学を宣伝しようという口である。 もっとも、設備においては国内随一を誇るので競争率は非常に激しいので大学としてはウハウハだろうが。 まあ、この大学はそういった専門的な設備だけでなく、その他のレジャー的設備も整っているのも人気の一つだと思う。 現に今、俺が食っている食堂のネギトロ丼も毎朝築地から活きの良いのを仕入れてくるらしく、そんじょそこらの寿司屋よりよっぽど上手い。 その上、値段も3桁と採算がとれるのかどうか心配になるほどのコストパフォーマンスを発揮している。 学生の身分故、常時金欠な事を考えるとこの食堂は正に天国だった。 「よう、恵太郎!」 俺が数少ない幸福を噛み締めていると頭部に鈍い痛みが奔り、むさ苦しい声も聞こえてきた。 思わずネギトロを吹き出しそうになるが歯を食いしばって堪える。 「……裕也先輩、人が飯喰ってる時に頭小突くのやめてもらえませんか?」 「おう? 男が細かい事気にすんなっての!!」 この図体がでかい筋肉ダルマは一応俺の先輩に当たる人で、名前は佐伯 裕也。 毎度毎度人の頭を小突くかなり傍迷惑な筋肉ダルマだ。 「こんにちは、佐伯さん」 しかし、俺の相棒は筋肉ダルマにも嫌な顔せずに挨拶を交わす。 いやはや、良い娘に育ったものだ。 「こんにちはなのだ~!」 筋肉ダルマの代わりにナルの挨拶に応えたのは筋肉ダルマの武装神姫、マオチャオ型の蒼蓮華だ。 今まで何処に居たのか知らないが、今はテーブルの上でナルに向かって骨法の構えを取っている。 「いざ、尋常に勝負なのだ~!」 「おう、そうだ! 今日こそ俺らが祝杯を挙げる日だ!!」 そう言うなり筋肉ダルマはテーブルに拳を叩きつけた。 「っと、冗談は筋肉だけにしてくださいよ」 まだ食べかけのネギトロ丼が激しく揺れたので、両手に抱えて空中に避難させる。 「裕子先輩ならまだしも、何度も何度も同じ相手と戦っても意味無いでしょう。」 「ふっふっふっふっふ……」 筋肉ダルマと蒼蓮華が揃って腕組をしながら怪しく笑った。 「何ですか、不気味ですね」 「コイツが何だか、解るか?」 そして懐から一枚の紙切れを取り出した。 どうせまたプロレスやら何やらのチケットだろう。 以前にも同じパターンは何度もあったし、二年も同じ事をやっていれば嫌でも学習する。 とりあえずはネギトロ丼を腹に注ぎ込んで、適当にあしらって午後の講義に備えよう。 確か午後は一般科目だった筈だ。 「マスターの姉上、裕子様の夏祭りでの浴衣ブロマイドなのだ~!」 「どうだ、恵太郎。これを賭けると言ってもまだ首を縦に振らないか?」 「放課後、第四バーチャルマシーンセンターの前で待ってます」 ナルの視線が痛かった。 時刻は午後5時過ぎ。 確か筋肉ダルマも今日の講義は全て終わっている筈なのだが……。 「遅い」 思わず声に出してしまった。 ナルはとっくの昔からトレーニングマシーンで模擬戦闘を繰り返している。 それを横目に俺は三本目の缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れた。 思えば、あの人に『放課後』と言って講義終了後直ぐに来るとは思えないのも確かだが。 ほんのり嫌気が刺してきて、ぼちぼち帰ろうかと思い出したその瞬間に聞きなれてしまった大声が聞こえてきた。 「よぉ、待たせたな!」 余りの能天気振りに怒る気力も消え失せた。 「……先輩、とっととやりましょう」 溜息の一つもついてやりたかったが、一応堪えておいた。 「尋常に勝負なのだ~!」 蒼蓮華は今まで何処に居たのか、何時の間にかバーチャル・バトルマシーンのクレイドルの上で仁王立ちしていた。 「ナル、準備は良いかい?」 「何時でも」 トレーニングンマシーンから出てきたナルに一応確認を取り、蓮と筋肉ダルマが待つバーチャル・バトルマシーンへと向かう。 「先輩、例のブツはちゃんと持ってきていますよね?」 「おう、男に二言は無ぇ!」 バーチャル・バトルマシーンのディスプレイを挟んで筋肉ダルマに今回の最優先事項を確認する。 「なら結構。では、始めましょうか」 「応ッ!」 バーチャル・バトルマシーンに備え付けられたクレイドル。 私はその上に横たわり、無線通信回路を開く。 頭部コアユニットからバーチャル・バトルマシーンへと、自身のあらゆるデータが転送されているのを感じる。 まるで頭の内側を何かが這い回るような奇妙な感覚。 それに伴い、私の身体の感覚が少しずつ消えていく。 最初に触覚。 背中に当たっていたクレイドルの感覚が感じられなくなる、というより重さを感じられなくなる。 次に嗅覚。 少し油臭いバーチャルマシーンセンターに充満する空気が感じられなくなる。 そして聴覚。 ごぅ、という空気の流れる音や、モーターの駆動音が一切聞こえなくなる。 最後に、視覚。 視界に映る高い天井がまるで夜の闇に溶け込む様に黒く塗り潰されていく。 身体の感覚が全て消えたその瞬間、意識が飛んだ。 今のこの身体には何も感じない。 モノに触る事も、モノの匂いを嗅ぐ事も、モノの音を聞く事も、モノを視る事も叶わない。 ただ一つ感じる事。 私の精神を司る電子の魂が、本来の機械の身体を離れて異なる場所に向かっていると言う事。 ソレを感じている時間は、実際には数秒程度だろうか。 その奇妙な感覚が薄れるのと逆に、身体の感覚が甦ってくる。 最初に触覚。 足の裏側から地面の反力。頬を撫ぜる湿っぽい風。いつもと違う重さを感じる。 次に嗅覚。 噎せ返るような木の匂い。生ぬるい風の匂い。現実は異なる匂いを感じる。 そして聴覚。 野鳥などの羽音や鳴き声。草と草が擦れ合う音。そして聞きなれた駆動音を感じる。 最後に、視覚。 まるで夜が明ける様に視界がクリアになっていく。 全身の感覚が元に戻る。 一つ違う事、それはこの身体が0と1との信号によって作られた仮想現実の身体であること。 そして普段の非武装形態ではない事。 今の私は戦闘形態。 右腕は高出力粒子砲と化し、左腕は巨大な腕と剣を持つ。 そして腰には追加アーマー。 我が主が自ら作って下さった、私の一番の宝物たち。 クリアな視界に映るのは、青々と生い茂る木々が立ち並ぶ熱帯雨林。 視界は生い茂る木々と立ち込める靄によって10sm先も確認できない程に悪い。 蒼蓮華も同じタイミングでログインしてきているのだろう。 ドップラーセンサを最大限稼動させ、動体を探るが……。 「ナル、このフィールドじゃセンサ類は恐らく役に立たない」 マスターの言うとおりだった。 動体を検出するドップラーセンサは検出する対象を制限できない。 よって、再現された野鳥や虫などの動体すらも検出してしまうので、センサには異常な検出結果がはじき出されている。 超音波センサはどうかと思ったがこちらも役に立ちそうに無い。 超音波センサは、超音波を照射して跳ね返ってくるまでの時間などの結果から対象の大きさや距離を検出するものだ。 だが、検出されるのは直ぐ近くの木々ばかり、肉視確認の方が余程視野が広い。 「この状況で最も有利なセンサ、それは……」 マスターの声にはっとする。 五感の中で視覚の次に重要視される感覚、それは聴覚。音、である。 密室かよほど入り組んだ地形で無い限り、音は関係なしに進んでいく。 それはこの仮想現実でも同様だ。 そして、聴覚センサがデフォルトで強化されているのは、ヴォッフェバニー、ハウリン、マオチャオ。 蒼蓮華はマオチャオ型。 ヴォッフェバニーより数段劣るとしても、私とは比べ物にならない。 それこそ、小さな駆動音からこの場所を探り当ててくるだろう。 この状況で最も有利な戦法、それは奇襲。 蒼蓮華は脚部に追加武装「紅蓮脚」を搭載している。 大出力のスラスターとショックアブソーバー、そして至射炸裂型榴弾。 簡単に言えば一撃必殺型装備。 当たれば大ダメージを受ける事は間違いない。 当たればだが。 「にゃんだぁぁ~~~きぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅ!!」 大声を上げ、右方向から水平に蹴り込んで来た蒼蓮華を軽いバックステップで避ける。 「にゃ!? にゃにゃにゃにゃにゃ~~~~~~」 勢いを殺しきれず、進路にある木々を蹴り倒しながら突き進んでいく蒼蓮華を見送る。 「またか……」 マスターの溜息混じりの声が聞こえてきた。 私も溜息をつきたくなった。 大人しく黙って奇襲すれば良いものを、何でわざわざ大声なんか出して自分の居場所を知らせるのか。 以前聞いたときは「そこにロマンがあるからなのだ~」としか言わなかった。 私には理解できないが、当人にとっては大事な事なのだろう。 もうやる気が八割くらい無くなって気が緩んだ、その瞬間。 「隙ありなのだ~!」 何時の間に近づいていたのか、顔面目掛けて回し蹴りをかまそうとする蒼蓮華の姿があった。 マオチャオの消音機能はMMSの中でも随一であり、蒼蓮華も健在のようだ。 「……っ」 刃鋼で何とかガードしたものの、足の踏ん張りが効かずに吹き飛ばされた。 すぐさま体勢を立て直そうとするが。 「まだまだなのだ!」 宙を舞う私目掛けて、蒼蓮華が一気に飛び込んできた。 一瞬。ほんの一瞬で蒼蓮華の顔が間近に迫っていた。 瞬発力だけで言えば、神姫の中でも随一だろう。 何時もは「なのだ~」とか言いながら能天気な顔をしているが、今の顔つき、そして目つきは真剣そのものだ。 その真剣な眼は確かに私の頭部を見つめている。 まるで野生のライオンが得物に飛び掛る瞬間、そんな眼だ。 蒼蓮華の右足が頭部目掛けて迫ってくるのを視界の隅で捕らえた。 萎んだやる気が膨らんできた。 頭を切り替える。 戦う事だけを考える。 勝つ事だけを考える。 それが武装神姫たる私の存在意義であり、マスターもそれを望んでいる……今回は微妙だが。 全身に備え付けられた推進装置の全てをフル稼働させる。 ただし、右側だけ。 均衡を崩した私の身体は独楽の様に回転した。 回転のエネルギーを乗せる様に、右腕の銃鋼をバックハンドブローの要領で錬の右足に叩き込む。 蒼蓮華の至射炸裂型榴弾のエネルギーと私の遠心力と質量を合わせたエネルギーがぶつかり合う。 そのエネルギーは衝撃となって蒼蓮華と私に等しく分布され、お互いに弾かれあった。 私は地面に刃鋼を突きたてて着地、衝撃を無理やりに殺す。 そして右腕を確認。 残っていたのは腕と銃鋼を繋ぐコネクタ部分のみ。 ぞっとする。 三又の粒子加速装置と一本の砲身は跡形も無く吹き飛んでいた。 対する蒼蓮華はおよそ10sm先で至射炸裂型榴弾を撃った際に生じたガスの中、仁王立ちしていた。 等しく分布された筈のエネルギーは、蒼蓮華の右足に傷一つ付けてはいなかった。 本当に、ぞっとする。 最初に声を潜めて奇襲していたら。 後ろ回し蹴りの時黙っていたら。 私は、多分負けていた。 銃鋼の接続設定を変更し、銃鋼をパージする。 地面を覆う腐葉土の中にドスっという音と共に沈んでいく。 そして左手の刃鋼を逆手に持ち替える。 インファイター相手には、この剣は長すぎる。 この間、数秒の隙があったが蓮は先程と同じく仁王立ちしたままだった。 私の準備が整うのを待っているつもりか……。 内心首を捻りながら、私は左手を前に半身の構えを取る。 「いくのだ~!」 それを見た蒼蓮華は掛け声と共に駆ける。 やっぱり、速い。 10smの距離をぐんぐん縮めてくる。 私と蒼蓮華との距離が3smを切った時、跳んだ。 私目掛けて両足を揃えて飛んでくる。 私の顔目掛けてその紅蓮脚を叩き込もうと飛んでくる。 しかし、蒼蓮華の紅蓮脚には欠点がある。 車は急に止まれないように。 弾丸が途中で曲がれないように。 その速度は時に欠点となりえる。 だから私は、身体を右に逸らして蒼蓮華の紅蓮脚をやり過ごす。 背中の補助スラスターやらセンサ類が蹴り飛ばされたが気にしない。 蒼蓮華と目が合った。 その眼に映るのは私だけ。 その眼に灯るのは戦意だけ。 その表情は、まさに戦士。 その顔に、私は振り上げた左手を叩き込んだ。 この左腕は殴る為のものでは無いが、元の神姫の腕より一回りも二回りも太いく大きい。 その上、刃鋼を持ったままなので更に質量が上乗せされる。 その一撃をもろに顔面に貰った蒼蓮華は、その衝撃で地面に叩きつけられた。 蒼蓮華は目をぐるぐる回し、頭上にはヒヨコがピヨピヨ飛んでいる……様に見えた。 「ぬぁぁぁぁ~!!」 「さぁて……先輩、出すモン出して貰いましょうか」 バーチャル・バトルマシーンのクレイドルから起き上がったら佐伯さんが頭を抱えて吠えていた。 それにしても、マスターの裕子さんフリークはどうしたものか。 現に目付きとか言葉遣いとか随分違う。 「……男の約束だ」 そういうと佐伯さんはマスターに一枚の写真を手渡した。 それを受け取ったマスターは一瞬、誰にも、私にも見せたことのない優しい表情になった。 「……確かに。ナル、帰ろう」 マスターはそう言うと私を抱えて胸ポケットの中に入れてくれた。 その前に蒼蓮華に挨拶しておこうと思ったが、それは出来なかった。 「あらあら、裕也。神姫バトルも良いけれど、モノを賭けるのは禁止してた筈でしょう?」 人影まばらなセンターに女性の声が響く。 その声を聞いた瞬間、マスターと佐伯さんは石像のように硬直した。 「約束を破る子には、オシオキが必要よね?」 その刹那、身体に急激な衝撃が加わった。 マスターが全速力で走り出したのだ。 その顔を見ると、まるで警察から逃れる銀行強盗のような切羽詰った表情をしている。 「恵太郎くんも……ダメじゃない」 「ゆ、裕子先輩……」 もう慣れたが、佐伯さんの姉上である裕子さんが何時の間にか目の前に立っていた。 私はとばっちりを受けないようにマスターの胸ポケットから飛び降りた。 「これは違うんです…」 「何も、違わないわ」 裕子さんはとても綺麗な方で、神姫の私から見てもとても魅力的な女性だと思う。 誰にでも、神姫にでも優しい裕子さんを嫌う人を私は見たことが無い。 ……もっとも、裕子さんを恐れる人なら幾らでもいるのだが。 「神姫は賭け事の道具じゃないとあれほど言ったのに……」 裕子さんは哀しそうな表情で一歩一歩マスターへと近づいてくる。 私は佐伯さんの事を思い出し、遥か後方を振り返った。 しかして、そこにいたのは佐伯さんだったモノだった。 その物体は真っ白くなり口から煙を吐いている……ように見えた。 余程恐ろしい目にあったのだろう。 ……そして、マスターも。 「も、もうしませんから許してくださいぃぃぃぃ~~~~」 「ダメ、絶対」 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/482.html
・・・・・・行かなきゃいけないのかなあ。 夏休み初日、僕は起きてからずっと迷っていた。 昨日は梓に押し切られ、会う約束を取り付けられてしまったが、やはり気が乗らない。人とはあまり関わりたくないし。 その一方で、久しぶりに同年代の子と話せるという楽しみもあったし、学年内でも人気の梓と、「武装神姫」という秘密を共有している嬉しさも、あった。 ・・・・・・どうしようかな。 「あの・・・・・・」 そんな具合で考えていると、ネロに声をかけられた。 「やはり迷惑ですし、断りの連絡を入れましょう」 最初は同意した。けれど、少し考えている内に、なんとなく、違う気がしてきた。 「・・・・・・そうやってまた、今までみたいに、あんなふうに生きていくの?」 あの時見た、ネロの姿を思い出す。 「ええ、慎一や他の方々に、迷惑をかけるわけには・・・・・・」 「そんなの認めない」 彼女の言葉を遮って、僕は言った。 「少なくとも、僕は迷惑だなんて思わない。それよりも、君があんな目に遭っていることの方が、僕には我慢できないよ」 「し、しかし・・・・・・」 いったい何が僕を衝き動かしたのか、とにかく僕はネロを説き伏せ、梓との待ち合わせ場所であるセンターへ向かった。 「あ、おはよー、星野くん」 「う、うん。おはよう」 ・・・・・・しかし、開店直後に待ち合わせというのはいかがなものか。 「紹介するね、この子はミナツキ」 「はじめまして。以後、お見知りおきを」 梓の肩の上で、猫型の神姫がぺこりとお辞儀をした。 「あ・・・・・・、こ、こちらこそ」 「ネロです。どうぞよろしく」 ・・・・・・なんか調子狂うなあ。 とりあえず、出掛ける前にネロから聞いた話をいくつか、した。 彼女のメモリにはブロックがかかっており、人間でいう「記憶喪失」みたいな状態になっているらしい、ということ。 もともとのマスターが行方不明になったのが、半年前――僕はこの半年前という言葉に、奇妙な引っ掛かりを感じていた――ということ。 「ふうん・・・・・・。製造番号とか、登録ナンバーとかで、何かわからないかな?」 「うん、それも考えたんだけど・・・・・・」 身体に刻まれている製造番号は削れてしまっていたし、登録ナンバーも、彼女のアクセスコードがわからないから調べることができなかった。 「うーん・・・・・・」 梓が唸っていると、 「あれ? 梓ちゃん、珍しいね」 と、男性の声がした。 「あ、修也さん」 事情を聞いてくれたその男性――上岡修也さんは、梓の従兄らしい。 「なるほど・・・・・・。そりゃあちょっと、複雑な問題だな」 そう呟いて、修也さんは携帯電話を取り出すと、どこかに電話を掛けた。そして、 「よし、これでとりあえず、不法所持の問題はなんとかなる」 と言った。 その夜。僕のパソコンに、一通の添付ファイル付きメールが届いた。差出人を確認すると、梓からだった。携帯を持っていない(というか持ちたくない)僕は、別れ際に彼女にパソコンのメールアドレスを教えておいたのだ。・・・・・・どちらかというと、教えさせられたと言った方がいいかも知れない。 「あれ・・・・・・?」 しかし読んでみると、文面は修也さんのものだった。 添付ファイルのプログラムを、ネロにインストールしろという内容。 当面、周りの目をごまかすための、偽造データとのことだった。 「ネロ、どうする?」 僕は聞いた。 「・・・・・・インストールします。それで少しでも、慎一達の負担が減るのでしたら」 「そんなこと・・・・・・、考えなくていいよ」 「・・・・・・すみません」 ・・・・・・これは、所詮偽物でしかない。でも、今の僕とネロをつなぐ、たったひとつの綱のように思えた。 幻の物語へ